寺田一門(寺田寅彦の学風を嗣ぐ物理学者)のうち、一番師匠に近いのは中谷宇吉郎であろう。本来なら、また、戦争がなければ先端であった原子物理などの研究で、一流の業績を残したのであろうが、時代がそうはさせなかった。
当時、開学したばかりの北大の理学部の創設に立ち会い、土地柄にふさわしい業績を残したのは幸いであった。
いわゆる科学動員計画が決まるのが1940年、中谷宇吉郎は「航空機着氷の研究」と「霧の研究」を1941年2月よりスタートさせている。
前者はニセコ山頂観測所の建設となる。当時の費用で22万円もの予算を投じた研究であった。
翼着氷研究、プロペラ着氷研究、遮風板防曇法などが課題である。
なんといっても実物大の零戦のプロペラを持ち込んで実験したのだから、馬鹿にしたものではない。発電機と100馬力モータも山頂まで運び込んだ。ニセコ山頂は300メートル級なのだ、すべての機材を人力で運びあげたという。
1944年頃のことだから、戦争も負けだし物資払底の時期だ。せっかく試作されたプロペラの着氷防止装置は実用化されなかった。
もう一つの研究は霧を消去する研究だ。大掛かりなものだ。これは満更ホラ研究ではない。1944年にはイギリスが熱式の霧消散装置を実用化していたのだ。
その研究が始まったのも1944年である。根室に研究室が設けられて何回かの霧消散実験や霧の観測を実施している。
いずれも殺人兵器とは無縁のものであるが、戦時動員で北辺の中谷宇吉郎ような低温物理学者も狩出されたのは興味深い事実である。
以下、当時の映像だ。
宇吉郎は、戦後まもなくアメリカに招待されている。人工雪の研究が高く評価されたのである。
主にこの本に依拠した。写真や図版の多い良著である。
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