サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

日常サイエンスで挑む炎暑対策

 素人考えではあるけれど科学的な情報ソースを総動員して、この凄まじい炎天下の日本を乗り切る方策をまとめてみます。
 なにかの役に立つのなら幸いです。

 対象は都会での生活者です。コンクリートアスファルトに囲まれた人工環境で生きる市民の対策です。言い換えるとエアコンが効いた室内とそうでない屋外を行ったり来たりする人を念頭においてます。

 まず、汗に対する考察から始めましょう。水1グラムで540カロリーの気化熱を運び出してくれます。体温調節では汗を流すことが重要です。

 汗の専門家である小川徳雄を引用しましょう。

 砂漠など気温は非常に高く40℃以上にもなるが、湿度は10%程度といったきわめて低い環境では、どうすべきか考えてみよう。外気温が体温より高く、日差しも強いので、外の熱を遮断するのに衣服は必要となる。これは放射熱を防ぐだけでなく、対流による空気の動きも制御するようにしなければならない。同時に、汗の蒸発を保つのに適当な換気は必要となる。原住民が着ている、ゆったりとした分厚い毛糸やモヘア織りの着物は理にかなっている。

 ゆったりとした服装であることがヒントになりましょう。ビシッと決めたスーツやネクタイなどでは身体が放熱できなくなくなります。余計なお世話でしょうがスマホも発熱源です。待ち受けだけでもCPUが動いて発熱するのは炎天下では困りもんです。
 ちなみに久野寧という人は汗研究の大家でありました。その成果は今でも引用されるのです。

 汗の掻き方に関する法則も使えるかもしれません。半側発汗です。

からだの左右いずれかの皮膚の部分に圧迫が加わると、発汗量にこのような奇妙な左右差が起こるのである。からだの片側を下にして寝ると、下になった側では汗が蒸発しにくく、寝具にしみたりするので、無用な発汗を減らすという合理的な現象といえる。

 ということで半側発汗の現象を利用すると日の当たる体側に発汗を集中させることができるわけです。掻きたい場所に汗を出せるってスゴクないですかね?
 この現象については高木健太郎の『生体の調整機能』が詳しいです。

 日本人は幸いにして、汗腺数がやたらと多い。南方の人々よりも多かったりする。

 なんにせよ、しけっぽい風土では汗をかけということなのでしょう。

 なお、100均で売っているアルコール除菌シートを利用するという手段もあります。このシートを首筋と襟もとに挟んでおくのです。アルコールの気化熱で首筋が冷えて効果的であります。


 衣服の物理特性も炎熱防御に役立てることができましょう。色彩と重ね着がその方策となります。
 その戦略を説き明かしましょう。戦略といっても迷彩色のミリタリージャケットを着用せよなどとは申しません。
 黒インナーを着て、その上にアウター上着を白にするというものです。
ご存知のように白は太陽光の熱をはじき返します。外では白いアウターを羽織るのです。
それを着たままだと室内では熱を保存してしまうことになります。白は熱がこもる傾向があるので、冷房が効いている室内ではそれを脱ぐのであります。その際にインナーが黒いシャツであると熱を拡散しやすくなるわけです。
 アウターにこもった熱を処分できるわけです。
外出するときは上着をはおり、アウターとインナーに空気の層を確保します。そうです、エアコンの空気を熱の緩衝層とするわけです。
 これらの衣服は通気性がよく、ゆったりとしたサイズであることは言うまでもないでしょう。
 炎天下にあって黒い塗装の車がどんなに熱せらるか、触ったことがある人はご存知でしょう。衣服も同じです。*1 
 どのくらいの吸収率かは「色による熱吸収性の違いについて」を参照ください。
 そこに出てくるグラフを下に置きます。
 白は黒の十数倍も熱(太陽光の放射熱)を跳ね返してくれるのであります。赤外線を吸収しないのでありますな。

 最後に熱中症について医学書を参照しておきたいと思います。体温の上限についてのおさらいから、『環境生理学』(培風館)を引用します。

 ヒトの核心温の上限界温度までの幅は、下限界と比較すると狭く、その許容範囲は5℃
である。体温調整機能が正常に働くのは、核心温が41℃までされている。

 でもって、内科学の標準的な教科書である『内科学[第八版] Ⅰ 総論・症候学・治療学』(朝倉書店)です。 熱中症は三種類にわけられ、熱痙攣熱疲労、労作性熱射病
となります。死亡率は10%と高いそうです。症状は高体温(直腸温40℃以上)、意識障害、発汗停止などです。

 治療法については下記のような図がありますが、生兵法は大怪我の基なので参考にとどめてくださいませ。


【参考資料】

新 汗のはなし―汗と暑さの生理学

新 汗のはなし―汗と暑さの生理学

内科学 【分冊版】 (第11版)

内科学 【分冊版】 (第11版)

  • 発売日: 2017/03/10
  • メディア: 大型本

 敬意をこめて久野寧氏の業績をあげておきます。

汗の話 (1963年)

汗の話 (1963年)

汗

  • 作者:久野 寧
  • 発売日: 1946/09/10
  • メディア: 単行本

*1:黒い車のオーナーはクーラーでギンギンに車内を冷やしてるんでしょうが、その排熱を周辺にばらまいているのをお忘れなく!