サイエンスとサピエンス

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AIの進化=次のバイオミミクリー

機械の発達の筋道には法則性があり、それを定式化したのがカップの器官投映説だと理解している。生物の器官を模倣しながら技術的な発展を遂げている機械があるということだ。
 例えば、カメラの構造は眼をなぞっている。レンズと絞り、それに網膜は光学カメラも同様な構造になっている。
バイオミミクリーという表現でも流布している。生物の持つ機能や特徴を意識的かつ技術的に取り込んだ開発手法だ。
 そういう考え方からするとAIの一部も器官投映と言えなくもない。とりわけニューラルネットワークがそうだ。
ニューラルネットワークは神経の悉無律とそのネットワーク構造を電子的に模倣したものだといえる。
その進化は著しく、人間の仕事の多くをAIに置き換える動きが加速している。
 ところで、神経細胞は模倣しているが、もう一つの脳細胞といわれるグリア細胞は忘れられたままだ。
それも当然、グリア細胞ニューロン神経細胞)の裏方に過ぎないと思われていた。
つまり、ニューロンに養分を供給したり、損傷を修復するような保護機能しかないと思われていたからだ。
グリア細胞は単なるハウスキーピング細胞ではないのだ。
でも、脳神経科学の研究の最前線はグリア細胞の真の役割を説き明かしつつある。
そもそも昆虫のような無脊椎動物の脳と哺乳類のような脊椎生物の脳の最大の差はグリア細胞の有無なのだ。
グリア細胞には幾つかの種類がある。ミクログリア。これはニューロンの親衛隊のような役割をもつ。
アストロサイトはニューロンの充電器のようだ。イオン供給することでニューロンの発火活動(電気信号伝達)を支えている。オリゴデンドロサイトは謎のグリアだ。
また、グリア細胞の特異なタンパク質である繊維状タンパク質(GFAP)はアルツハイマー病や狂牛病で重要な役割を担うことが分かってきた。 
学習はニューロンの末端の分岐成長によるものとされる。その成長を制御しているのはグリア細胞らしいことが分かってきた。
 仮にバイオミミクリーが方法論的に正しいならば、次世代のAI技術はニューロンだけでなく、グリア細胞も模倣あるいはシミュレーションしなくてはないないであろう。
 一例をあげておこう。
 ニューラルネットワークはある有限なデータセットから学習する。ところがそのデータセットが時間推移で事実に合わなくなることがある。
 Aさんの好みを購買情報から学習しても、Aさんが結婚したり、海外移住したりすればそれまでの購買傾向と異なってくるだろう。そうなると一回生成されたニューラルネットワークの状態は予測能力が低下するわけだ。
ニューラルネットワークは変化しなくてはならないが、そのやり方は再学習しかないのだろうか?
 ひょっとしたらグリア細胞の機構を応用して、ニューラルネットワークの重みを変えるだけでなく、ニューロンの生き死にも左右する機能が必要なのかもしれない。


【参考資料】
 はじめに アインシュタインの脳細胞の奇怪なエピソードが語られる。この天才脳の特徴はグリア細胞の多さだった。