2020年11月の時点で、COVID19の第三波が世界中で猛威をふるっている。それでも国別での重症化のリスクの差は歴然としているようだ。
ベトナム、中国、韓国、日本などは感染者数や重傷者数の比率がアメリカ合衆国、イギリスなど欧米諸国よりも一桁以上低い。これは医療格差や文化的慣習(握手など)、民度だけでは語れない。
もちろん、人口密度や流動性は重要な因子だろうが、東京と岩手県の差異は語れるかもしれないが、上海とニューヨークの差異はそれだけでは説明不足だろう。
こうした抑制要因を山中教授はファクタ-Xとした。
何らかの遺伝的もしくは生物学的因子があるという仮説である。
実は流行病で人的国家的要因で大きな差が出たのは、人感染症では今回、初めてではないだろうか?
もちろん、違う。
かつても異なる文明の接触で起きた感染症の差異はあった。スペイン人が中南米のインカ帝国を滅ぼした、アメリカインディアンの悲劇のような事例だ。
ここで自分が取り上げたいのは人類の事例ではない。移動していない種の事例、
栗(クリ)の事例だ。いわゆるチェストナットだ。
20世紀初頭、北米大陸の原産種だった栗はクリ胴枯れ病によって、ほぼ絶滅した。木の形成層を食い荒らし、枯死に至らしめる恐怖の病いなのだ。
これは菌で起きる病気だ。この病気の流行以前には北米には栗の木が繁栄していた。一説では10億本くらいあったという。だが、それは過去の話しだ。今はアメリカ原産のクリは人間の保護下でどこかの植物園の片隅に生きているかどうかというところ。
アメリカの栗には致命的な病気であるこの病気は東アジアのクリには、そうではなかったのだ。日本産のクリは感染しても致死的でないことが発見された。中国のものも同様だ。
この耐性の獲得は同系列の病原菌に何度かさらされてきたからであろう。アメリカのクリの木は突然変異種か、それとも強力な外来の菌種が到来したためと考えられる。だが、それでも東アジアのクリは耐性があったという。
このように地理的隔離と類似な病原体への感染経験はその病気の耐性に大きな差異をもたらす。
実のところ、大航海時代から20世紀まで激烈な疫病伝播(ペスト、コレラや梅毒、スペイン風邪等々)は欧米人が感染の推進者&伝道者であり、その耐性も彼らが上位だった。
しかしながら、今回の2019年のコロナはそれが逆位相になったという点で、疫学史上とても興味深い事件だと後世の人たちが記録するのではないかと思っている(変な言い回しだが)
【参考文献】
クリ胴枯れ病のWIKIにもかなり情報が盛り込まれている。発見と絶滅の経緯を委細漏らさず説明しているのはニコラス・マネーの本だ。この本を推奨する。