コロナ禍で欧米諸国をはじめとして、南米や中近東、インドは軒並み感染者数増と経済活動の低迷に苦しんでいる。感染増大をコントロールできずにロックダウンを行うのは、まだ、ましな方だ。アメリカ合衆国やブラジルなどは、一部都市を除き放置状態である。
東アジアはそれほどでないにせよ、同じような問題を抱えている。
2020年初頭に誰がこんな事態を予想しただろう?
一応、警鐘を鳴らす人はいた。まずは、ドイツの思想家ウルリッヒ・ベック。
1986年の『危険社会』でのベックの指摘は地球規模でのリスク発生の先駆であり、リスクによる社会批判の土台になった。
橘木俊昭編『リスク社会を生きる』から、その論点を拾い出しておこう。
①現代のリスクは保険制度でカバーできないほど大規模な損害を与えている。
②リスクを知覚できない。これをベックは「非知」と認識している。
知覚できないのであれば、科学的知見による発見に依存せざるをえない。
③リスクに挑戦といったことはできず、むしろリスクに対して受動的にしか対処できない。
④リスクの発生の起源者とリスク発生の犠牲者が同一になっている。これをブーメラン効果という。
⑤リスクの発生は一国内だけでなく、グローバル化される傾向にある。
⑥リスク発生が国際間の不平等を起こすことがある。例えば化学物質による被害や森林破壊といった点で、先進国が途上国に押し付けることがある。
「リスクのグローバル化により不可視となり原因と危害の範囲が国境をこえる」 という主張は、21世紀を1/5ほど経過した我々にとって、ある意味、社会的常識といえるだろう。
そして、2020年のこの時点で直面している事態はJ.キャスティの指摘する「Xイベント」に近い。キャスティは複雑性とカオスの専門家だ。著名なサンタフェ研究所に所属している。
彼の著書、2011年の『Xイベント』で「極端な事象」が複雑化した技術文明を翻弄するとしている。
キャスティが挙げているのは、
1)インターネットの長期停止 システム・クラッシュの連鎖
2)世界の食糧供給の崩壊 ミツバチの巣崩壊
3)太陽磁気嵐の到来で電子機器が不作動となる
4)エキゾチック粒子実験による地球のカスケード破壊
5)核施設の事故あるいはテロによる放射能汚染
6)世界規模の流行病
7)停電と水不足
8)AIの暴走
9)グローバルデフレと金融不況
5)6)7)は福島第一原発事故や観測史上稀有な豪雨による水害と停電を経験した日本人には、絵空事ではない。
とくに9カ国の核兵器保有国の安全管理能力はどれだけ信頼できるのだろうか?
よもやよもやの震災後の停電と津波による自家発電の喪失でチェルノブイリ原発事故以来の放射能汚染を経験した日本人としては、敏感にならざるを得ない。
これらは統計的に極めて稀な事態で起きるハザードであっても、次々に現代文明を襲ってくるのは間違いないだろう。そうはいっても4)と8)は確かに異論は多いことだろう。
どうやらナシーム・タレブのブラックスワンが、グローバル化した文明を到来する季節になった。トインビーは文明は内部と外部からの挑戦をうけると言っていた。
現代文明はそういう挑戦と試練を受ける時節にあるようだ。
【参考文献】