サイエンスとサピエンス

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『細雪』のリミックスによるSF化計画

 谷崎潤一郎の『細雪』の本歌取りSFの構想を述べる。
 あの芳醇な文学をデジタルなリミックスによりSF小説化する。芸術の冒涜ではなく100年後の末裔からのオマージュだと考えてほしい。

 谷崎の文学業績は明治以降の一大巨峰であり、その芸術性では芥川や川端、荷風や春夫を抜いていたと評価されている。

 話しは芦屋の新興住宅地の瀟洒な家ではじまる。

 阪神ブルジョアであった蒔岡家。その四姉妹の春夏秋冬を大日本帝国の暮れ方か

1930年代の日本。世界において先進的な科学技術と有数の領土をもつ帝国の一つであった。それが短命に終わることがなく、日の沈むことのない国家であり続けたとしたら...。

 つまり、 長く苦しい日中戦争はなく、治安維持法憲兵もない春風駘蕩な日常。
でも、SF要素をふんだんに織り込んだ日常を描く。


 電話は映像電話に、鉄道は弾丸列車に置き換える。関西の企業にも登場してもらおう。五洋電機は家庭用パーマネントで、大阪金属工業は室内冷房子を売り出している。

 飛行船と自動車は水素動力で空を飛び、シン紫電改は圧倒的な能力をもつ戦闘機として早くも周辺国に恐れられている。伊号深度潜水母艦はアジアの平和に貢献している。

 すでに戦艦ソラリス大和と航空母艦のメガリ信濃はその雄姿を世界に喧伝しているのだ。太平洋の抑止戦力としての超巨艦の顕示である。

 そして、抗生物質と栄養は人びとにいきわたり、豊かで安定した市民生活がある。

 ネオ京都学派の「霊性帝国主義」が思想界を風靡している。政治においては大東亜の瞑想的統治となり、経済界においては協同主義という形で労使協調が実現している。

 蒔岡家の若々しく美しい三女、雪子の三度の見合いをめぐる人びとの葛藤と喜びを丹念に描写した原作。それに帝国の最盛期の文化と技術を書き込むだけで、このリミックスSFは完成するのだ。
 帝国は長く緩やかに、そして、臣民はたおやかに平和と繁栄を享受したとしての架空の物語りだ。

こいさん、頼むわ。―――」
鏡の中で、廊下からうしろへ這入て来た妙子を見ると、自分で襟を塗りかけていた刷毛を渡して、
其方は見ずに、眼の前に映っている長襦袢姿の、抜き衣紋の顔を他人の顔のように見据えながら、
「雪子ちゃん下で何してる」
と、幸子さはきいた。
悦ちゃんのピアノ見たげてるらしい」

 有名な冒頭シーンで谷崎はほんのりと上品なブルジョアの女性の視界に引きずりこむ。凡百の小説にはできないことだ。この味わいある伝統にSFをリミックスするのは数ステップで済む。


  阪神モダニズムのスチームpunkを谷崎潤一郎の文学世界の架上に構築する。
4回にわたる雪子の見合いを軸に、アヴァンギャルドな消費社会が上方文化に溶融したライフスタイルを紡ぎだす。

なんにせよ、手塚治虫の漫画やタルホの未来派詩もここから生まれ出た。

 そうそう、これは偉大な帝国の平凡な市民のおとぎ話なのだ。 そんな小説を『細雪』からスピンアウトさせよう!