サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

山火事(森林火災)をサイエンスする

 今年のロサンゼルスの大火は山火事による延焼であったが、空前の被害額になるといわれている。高級住宅街のパリセーズ地区(9300ヘクタール以上で、5000軒以上の建物)が焦土と化したのだから、そうなる。

この地区は火災保険がかけられない住宅が多かったとの報道もあり、被害の回復もおぼつかない人びとも多いと想像される。

 損害保険会社は火災リスクを見積もり、LAの多くの土地が山火事などの延焼リスクの高い土地になっているのをビジネス柄評価済みだったわけだ。

 カリフォルニアを含めたアメリカ西部の山火事については21世紀に入ったあたりから、大規模化が進んだといわれている。その対策はもちろん進められていたわけだが、

科学雑誌の代表『日経サイエンス』である程度、追いかけることができる。

 2007年11月号の記事「森林火災を予測する」から紐とこう。背景には米国で2005年3万5千㎢、そして2006年に4万㎢を焼失したと前置きがある。

 関係当局と専門家チームは「FSPro」という延焼確率の予測シミュレーションを作成したという。GISと組み合わせて地形による延焼予測も役立てることができる。

 この時点では2000年代初頭の対策の主流はシミュレーションモデルであるといっている。山火事の発生状況が変化したことを反映しているといえる。

 下の火災危険度評価は別のWFASシステムからの損害リスク地図だ。

 

 時はくだって2013年5月号は「越境汚染」の特集が組まれた。これば専ら、中国大陸からのPM2.5や黄砂の問題を取り上げている。この時代には中国の工業力の伸長が著しくその排出ガスも増加の一途であった。

 他方、2020年8月号の記事『煙の正体を突き止めろ』では山火事の二次被害である大気汚染の観測に関する記事だ。

 前年に「2018年にカリフォルニア州パラダイスで発生した「キャンプ・ファイア」だ。人口2万6800人の町が炎に包まれ,ほぼ一夜にして1万8804棟の建物が焼失,少なくとも85人が死亡した。」

 2025年の大火より死者数は甚大であったのだ。しかも、2000年代には死者がそれほど多くなく、市街地の延焼はこれほど規模では起きていなかった!

 それが2020年前後でかなり厳しい大厄災の時代に突入した感じがある。

地球全体で見ると陸域の約4%が毎年,山火事に見舞われている。被害の深刻化は米国に限らない。2019年末にオーストラリアで発生した山火事の焼失面積は,すでに2018年のカリフォルニア州の山火事と2019年の南米アマゾンの山火事を足し合わせた面積の2倍を超えた。

2018年夏,北アイルランドでは前例のない大きな山火事が発生,シベリアの北極域と亜北極域でも約3万km2が燃えた。火災科学者でアリゾナ州立大学名誉教授のパインは山火事が地球規模で広がり始めた現代を「火新世(パイロセン;火の時代)」と名付けた。

 

 山火事の規模増大に関して地球温暖化の影響は間違いとされているので、ここでは触れない。

 大気汚染の越境化をどう科学者は考えているかの研究を書物で追いかける。

 大気の微粒子の注目はPM2.5であるが、日経サイエンスでは2020年11月号に『浮上 した大気汚染のリスク』なる記事がある。

 疫学調査アルツハイマー病発症リスクと大気汚染の相関が発見されたといい、また、マウス実験で大気汚染物質による脳損傷が確認されたとする。

 アルツハイマー病には一定の年齢まで生存することが条件だが、先進国での大気汚染物質の濃度(高寿命で汚染物質が神経系に累積等)はリスクを後押ししているのだろう。

 

 そのほかに山火事に由来するようなサイエンスの記事はないようだ。

むしろ、ナショナルジオグラフィックの2020年1月の記事があるのが目についた。

「川や海にも深刻な被害の恐れ、オーストラリアの森林火災」だ。10万5000㎢を焼き尽くしたオーストラリア史上最大の火災とある。その生態学的ダメージは深甚であると報じている。

 

 これまでの結論だが、科学技術はこれまでのところ、火災の予測モデルと被害の実態の把握すなわち山火事の計測とモデル化に注力している。それらはおそらく今年のLA火災の死傷者の低減や誘導に役立っていると思われる。

 これから頻発するであろう大火災にも有効であろうし、被害を低くできるだろう。

一つ注意しておきたいのは対症療法であるということだ。事前に察知して大火災を減らせるような仕組みではない。起きて後の被害拡大を低減させる方策であることを再認識しておきたい。

 津波の観測と予報システムと同様の働きをしているようだ。

 

 アマゾン、シベリア、アメリカと世界中の森林で起きた大規模火災の原因を探る本

 

 呼吸器への影響のまとめとして、木田厚瑞の著書の書き抜きを下の示す。

PM2.5が一立方メートル中10マイクログラム増加すると、虚血性心疾患、不整脈心不全、また不整脈などで起こる心停止は8~18%増加する。非常に細かな粒子は肺胞から血管のなかへと移動して血液の流れに乗る。その結果、血液のさらさら度が低下して固まりやすくなる。」

 つまり、大気汚染は肺自体よりも心臓や血管に影響がでるという意外な指摘だ。

だからこそ、公道で自動車のそばをサイクリングしている人は必要以上の心臓血管系のリスクを背負い込んでいるのではないかなあ。