サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

寺田寅彦もダーシー・トムソンを「いいね!」していた

類は友を呼ぶの好例。寺田寅彦もダーシー・トムソンを「いいね!」していた。

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ただ生物界の現象を説明するに力学を応用するようになった率先者の一人としてここに御紹介するその学者の名はダルシー・ウェントウォース・トムソンという。この論文は去る四月ロンドンの動物学会で述べたものである。

時は明治四十一年八月のことである。

うーん、さすがです。

 

 

マッチメイキングとガン発生あるいはノーベル経済学賞とノーベル医学生理学賞の相克

 アルビン・ロスはゲーム理論の応用で2012年ノーベル経済学賞を受けた。その代表的で社会貢献的な業績はマッチメイキングのアルゴリズムで腎臓移植を促進させたことだ。

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 臓器提供者(ドナー)と患者の間での腎臓移植をスムーズに行うには、様々な障害があった。ドナーの体質、臓器の鮮度や免疫適合、患者の体質、待機リストからの選定、オペレーションと外科医の手配、腎臓の円滑な移送などなど。

二組のマッチングだけでも複雑な手順が必要になるわけだが、Tayfun SonmezとUtku Unverといったトルコの共同研究者とともに実用的な手法を開発し、運用している。

 さて、このような善意からの行為と研究は言うまでもなく賞賛にあたいするものなのだが、現実世界は皮肉な顔を持っていることを指摘しておきたい。

 臓器移植の可能性を拡大させたのは拒絶反応を抑える免疫抑制剤の存在だ。この移植ペアの増大は免疫抑制剤を注入される患者の増大でもある。

 実のところ、免疫で活躍するT細胞はがん細胞を駆逐する能力がある。免疫抑制剤はT細胞の活性を抑え込む。すなわち、むやみな臓器移植はがんの発生率を増やす可能性があるのだ。

 自分の知人にも奥さんの腎臓移植をして数年後にガンになった60代の男性がいたりする(疫学的には何の証明でもないけれど)

 ゲーム理論のような無機的な数字合わせで医療をアルゴリズム的に効率化しても、複雑な生き物はしたり顔でしっぺ返しをすると言えないだろうか。

 あるいはノーベル経済学賞ノーベル医学生理学賞の相克といえなくもないかな。

 

 

【参考文献】

 上記の腎移植プログラム開発の詳細は彼の本に詳しく書かれている。

 

 免疫療法でノーベル賞を受賞した本庶佑(ほんじょ・たすく)の本。

 

 経済学者の著者はノーベル経済学賞の多くの疑問符を突き付けている。

 

火球の頻度増加の件

 このところ2週間に一度くらいで火球のニュースが流れる。それも国内での目撃なのだ。その軌跡情報から落下場所を推測して隕石のかけらを民家の屋根から発見なんてこともあった。おそらくは他国でも同様であろう。

 その増加の主要因は、スマホや定点監視カメラなどの記録装置の普及&増殖とされる。ニュースネタなので映像があれば取り上げやすいのだ。

 これが、一昔前であれば、東の夜空に光る物体がゆらゆら飛びましたという目撃者の談話を新聞の片隅でたまーにみかける、そんなのどかな時代もあった。

 であるので、ここからはスペキュレーションにすぎないのだが、近い将来に科学者が

「火球増大の原因は人類による小惑星帯への観測衛星による」という説を主張する可能性をメモっておく。

 ハヤブサ1&2のような小惑星に力学的インパクトを与えるような探査機が小惑星帯のような準安定な多体系に及ぼす天体力学的な影響を見積もることは困難かもしれない。

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 でも、影響なしと言い切れるか?

 この杞憂のタネはカオス理論にある。南半球の蝶の羽ばたきが北半球の嵐につながるという、あれである。

 小惑星帯に物理的接触をしてから10年にもならずして、地球にそのかけらが飛来するには時間的に短すぎるという反論もあるかもしれない。しかし、現にハヤブサは2003年に打ち上げ、2005年にイトカワに一発オカマを掘るという偉業を成して、帰途は5年で

地球に戻っている。帰途は最小限の噴射でスゥイングバイなどを利用しながらの帰還だったはずだ。数年で小惑星帯から地球まで破片は移動できるのであろう。

 木星への隕石衝突を京大で観測に成功したというニュースが10月にあった。木星への隕石衝突といえば、シューメーカー・レヴィ彗星(1994)の天体ショーが有名だ。

 一つの予測として、木星への隕石衝突の観測は増大する。地球への飛来するのだから木星への衝突も増加、劇的に増加するだろう。...としておこう。

 

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【参考文献】

 この本の太陽系カオスが読みどころ

 

宇宙旅行は人類が主役である、本当に?

 サミュエル・バトラーは「ニワトリは卵が進化するための手段である」とダーウィンの進化論を皮肉った。バトラーの発想はユニークだし、そうした観点の逆転はしばしば科学の進歩にもつながっているという前提で、以下の議論を味わっていただきたい。

 ウイルスや細菌の一部が宿主の行動に影響を与えて、自己の繁殖機会を増やそうとする事実は近年、多くの事例が集積されてきた。

 ホスト(宿主)の集団行動を微生物がコントロールする可能性があると想像してみよう。一匹だけではなく、集団行動を促す可能性だ。その集団行動は微生物が繁殖することにつながる。盲目的選択だから、集団行動の結果が必ずしも微生物の繁殖にならないことは多いだろう。しかし、盲目的であるがゆえに何度も試すだろう。

 ホストの定住域を抜け出し、移動に駆り立てるような集団行動もありうるだろう。

 ところで、国際宇宙ステーションISS)には細菌が繁殖している。

 ちなみに、船内はどんな臭いが漂っているだろう? 生ごみ臭と体臭の入り混じった臭いだ。それもそのはず、足の臭いの原因である枯草菌が最多で検出された。糞便微生物もにぎわっていた。人体由来の微生物の住処だったわけである。

 こうして、我々は大慌てで次のような暴論に至るのだ。

 宇宙船は微生物が他の天体への拡散のため、人類を使役して組み立てた移動カプセルである。

 サミュエル・バトラー的な味わいのある棘のある逆説的指摘だろうと我ながら思うのだが、これは孤立した宇宙旅行への批判というわけでもない。

 実際、技術文明史の大家のルイス・マンフォードは宇宙船を自然と切り離された人工胎盤、あるいは機械の一部でしかないと論じていいた。また、別の観点であるけれどNASAで研究していたジョーン・ヴァーニカスによれば長期の宇宙旅行が人体にもたらす影響はいいものが何一つないようだ。

 特定の微生物の巣窟となったISSの臭い環境。はてはて、人類の夢であった宇宙開拓はいったいどうなることやら。 

 

 

 

 

三種類の日本人の統計学史の相互不可侵

 三種類の統計学史というのは、北川敏男と竹内啓、それに宮川公男のものであります。

 それぞれに扱う対象は微妙に異なります。

 北川敏男のものは欧米を中心とした統計学の発展を主としているし、竹内啓はもう少し幅が広く、統計の対象となる社会的な集計行為(人口、家族センサス)の始まりと理論の並行発展を扱っている。他方、宮川公男のものは明治時代以降の国勢調査、経済統計導入の歴史を丹念に追求していた。つまり、制度の歴史である。

 ここでの、相互不可侵というのは、お互いの引用がほぼゼロということを指す。それぞれ、九州大、東大、一ツ橋大という異なる出自があるのだろう。

 これだけ統計とその歴史という狭いテーマにおいてさえ、学際交流がないというのことだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

ヴォイニッチ手稿の正体みたりアール・ブリュット

 先日、ケネディチャーチルの『ヴォイニッチ写本の謎』を読み直した。

 著者たちは普通の作家たち(それにしても凄い組み合せの名前)だ。BBCの特別番組の書籍化したものなので特別な偏向はない。つまり、この謎の手稿に対して、古代の叡智だの、秘密結社の秘本だの、賢者の暗号本だのという思い込みがない。それだけ客観性をもって、古今東西でも最も写本の謎を追い求めている。

 ロジャー・ベーコンが著者だというのが、発見者のヴォイニッチの説だった。たしかにあのフランシスコ会の天才的な修道士なら、この隠秘的なノートを残す可能性があっただろう。

 そして、この手稿は修道士の独自な暗号で書かれているというわけだ。

 雰囲気が味わえるようネットで公開されている手稿の数ページを転載しておこう。

イェール大学の蔵書印がある。

  

 このように植物誌のようなページが半分くらい続く。しかし、後半あたりから図誌の絵柄は変調する。妖精めいた人物像が植物に出てきて、さらには天界のような同心円やら星雲めいた渦が含まれていたりする。

 

   

 

 目を惹く図としては銀河系のような渦が描かれているページがある。中世の暗黒時代に渦銀河?これは失われた古代文明の遺産ではないの? となるわけであります。

 

 このように、記された内容が尋常ならざるものだろうと想像するのは容易だろう。でも、この稚拙な図像に秩序があるのだろうか? アルファベットならざる文字の羅列に常人が読みとるための規則があるのだろうか?

 そう、「古代の叡智だの、秘密結社の秘本だの、賢者の暗号本」ではないのだと自分も思う。

 自分の説は中世のアール・ブリュットだというものだ。

 この『ヴォイニッチ写本の謎』にアウトサイダー・アートの可能性が触れられていないわけではない。2頁にわたってヘンリー・ダーガーが挙げられている。しかし、著者らは可能性を指摘するだけで、すぐさま、ビンゲンのヒルデガルドの話題に移っている。つとに種村季弘が紹介したビンゲンのヒルデガルドの書物はマルチタレントだった修道女の聖なるイメージとメッセージにあふれている。同じような秘密の書なら、ヴォイニッチ写本は宗教書であるとしたいのはわかる。そっちの仮説の方が大衆受けるすからだろう。

 今日では、アール・ブリュットが様々なタイプの秘密に満ちた、しかし、作者にしか意味がないような創作物を残している。彼らは閉された世界観をもっているのだ。

 NHK制作の『‘No art, no life』シリーズの取材したアール・ブリュットのタイプだけでもヴォイニッチ写本のパターンはカバーできている。

 身近な植物を何十年と描く老人、電車や建物をすき間なく平面に埋め尽くす少年、原色に満ちた有機物が織りなす造形を倦むことなく産出する女性..。その多くは自分の内面の豊穣なイメージを絵具に託している。

 もちろん自然誌的な造形をするアール・ブリュットもいる。

下のようなルボシュ・プルニーの図誌はいかがか?

         

 

 日経サイエンスの『ヴォイニッチ手稿の謎』(2004年10月号)の記事では、カルダーノのグリルという一種の暗号生成器で作成されたものに似た規則性があるという。しかし、それさえもASD自閉スペクトラム症候群)的なヒトの脳のなかでの記号処理に規則性があると読めるだけだ。

 あの長い西洋中世期の修道僧が自閉スペクトラム症候群になって、自然界を自己流に観取して、細やかな世界記述をしていてもいいではないか。

 中世のアール・ブリュット、それがヴォイニッチ手稿なのだと思うのだ。

 

【参考文献】

 

 

 

 

エネルギー資源の覇権戦争としてのウクライナ戦争

 ロシアのウクライナ侵攻の背景にはプーチン政権のエネルギー覇権をめぐる戦略があった。
 プーチンの権力維持の軸は、エネルギー資源のシェア拡大と暴力的な威圧による脅威の除去だった。これらを効果的に組み合わせて専制体制を維持してきた。

 西側の経済制裁が大きく効いていないのには、アメリカ主導の国際経済活動とは異なる流れを中国、ロシア、イラン、インドなどが維持拡大してきたからだ。とくにイランはドルを介さない貿易を行ってきた。北朝鮮もそうだ。ロシアがそれに加わったのだ。

 これまでのウクライナ政権は西側諸国のメディアが報じているような公明正大な民主政権ではない。三分の一がロシア語を話す民族構成であり、汚職がはびこり、ロシアの天然ガスパイプラインからガスを抜き得手勝手に使う。エネルギー効率に関しては低レベルであったとされる。
 
 アメリカのエネルギー資源戦略と基軸通貨としてドルのリンケージ。ペトロダラー戦略は巧妙なものであり、アメリカの経済力の凋落を覆い隠すのに大きな効能を持っていた。
 経済的地位の喪失は、累積赤字の対GDP比が130%(2022年4月)、低い経済成長率、債権バブルの崩壊兆候(2022年1月からの9月まで)、人口成長率の低迷(2021年 0.2%)

 ドルの国際的な価値はおそらく今回のウクライナ戦争とエネルギー価格の高騰で揺らいでるはずだ。海外の6000億ドルの累積債務が積みあげることができたのは強いドルに支えられていた。米国政府の負債もそう。対外貿易赤字もそう。米国人の自虐的な消費過多と赤字体質を支えてきた。

 そして、今、アメリカのエネルギー戦略が狂い始めているのだ。
 それとは別に政治的な問題がある。内部の分断が2010年以降急速に進行しており、その亀裂は対話での修復が困難なレベルになりつつある。その大きな原因は経済的な中流階級の縮小だ。

 EUのエネルギー戦略は2022年の冬に各国軒並み(イギリスも北欧も含め)試練にさらされる。電力供給の不足は価格高騰を招いており、各産業に悪影響を与え、快適な暖房すら享受できない家庭が山ほど出現するだろう。

 再生可能エネルギーへの急激なシフトとウクライナ戦争という不測の事態が重なったためである。後者はプーチンのエネルギー覇権主義の結果でもあった。

ロシアとEUは手を握りながら、ド突きあいする羽目に陥った。

 再生可能エネルギーの導入は不可避だろうが、その経済的インパクトや環境への劣化作用がよく把握されていないまま、統治者たちはラディカルな目標設定をしている。とくにEUの一部やカリフォルニア州などがそうだ。
 供給面に関して、面積当たりの低生産密度と日和見性=不安定性がもたらす経済活動や生活への影響を広範な視点でよく理解していないのが現状だ。
 これは半世紀前の経済エントロピー学派(ジョージェスク・レーゲン等)が指摘していた点である。乱立するメガソーラーによる森林伐採や土地浸食が一例だろう。
「スモール イズ ビューティフル」ではなく、「スプレッド イズ ニア ワースト」なのだ。

 

 地球的な資源獲得競争は鳥瞰的にみれば、こういう利益背反する国家間の対立と戦争になることは、これまでも起きていたことだ。現代社会が運営してきた国際機関も平和団体国際法もどうやらそれを食い止める力はないようだ。