サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

2014-01-01から1年間の記事一覧

技術の定向進化と若年層失業

先進国で共通に見られるマクロ経済的な社会問題は「若年層失業率の増大」傾向である。若年層とは25歳以下の就業可能人口を指す。 アメリカ、西欧諸国(イギリスやフランス、ドイツ)、それに日本では数十年それがトレンドになっている。 経済変調を来たして…

エンジンの語源

日ごろ何気なく使うエンジン(engine)の語源は、なかなか探すのに苦労した。 それに対して、エンジニア(engineer)の語源を『科学史技術史事典』(弘文堂)に発見するのは容易だった。 なんでも「天才」が本来的な意味だったようだ。ルネサンス期に生まれ…

クン・サン族の治療ダンス

カラハリ砂漠に住まうサン族(ブッシュマンは蔑称だ)のメディスンダンスの貴重な映像「N/um Tchai」 ロルナ・マーシャルとエリザベス・マーシャルは喪われゆく文化の記録を残した。 1950年代の実録である。なんてハルモニア! エリザベス・マーシャルは『ハ…

量子力学の創始者とギリシア哲学

ハイゼンベルクは晩年期の回顧的著書『部分と全体』で、自分がその創出に一役買った量子力学と素粒子論を総括しているのは、よく知られている。 究極の物質の理論は、ハイゼンベルクからすれば、デモクリトスの原子論よりはプラトンの自然哲学に近いという。…

人口爆発とハーバー、星新一

空中窒素固定法による化学肥料はハーバー=ボッシュ法と呼ばれ、第一次世界大戦中のドイツで工業化に成功した。ユダヤ系化学者ハーバーと技術者ボッシュは大気に含まれる大量の窒素から有機物質(戦争中は爆薬の原料)を製造する技術を確立したのだ。これに…

小惑星探査機の一覧

小惑星探査機(Asteroid Probes)というと「はやぶさ」に指をおる。それ以外の探査機を調べてみた。Near Shoemaker 1996年2月17日発射 433 Eros (1898 DQ) Deep Space1 1998年10月24日発射 9969 Braille (1992 KD) Stardust 1999年2月7日発射 5535 Annefrank…

ルイセンコ学説とショスタコービッチと今西進化論

ルイセンコ学説はスターリン時代のソ連科学界を支配した。ミチューリン主義もその非科学的な雰囲気の中で大流行した。日本の生物界にも影響していた。 1948年にショスタコーヴィチが映画音楽として「ミチューリン」を残している。 ところで、ルイセンコ…

少数支配と統治の技巧

イギリスは今でも尊敬される国家の一つであり、大英帝国の遺風を偲ぶ他民族も多い。 ロンドンのロンバード街はいまでも世界の金融中枢の一つであり、そのネットワークはケイマン諸島のようなタックスヘイブンは英国製という事実にも現れている。 大英帝国は…

ミシシッピ川の河口

ミシシッピ川は全長3779kmで北米で一番長い川、流域面積も最大の河川である。 ところが河口はそれほど目立つ存在ではない。 17世紀フランス人のラ・サールが領土宣言をした後、ミシシッピの河口を求めて海岸線を彷徨ってたあげく、部下に暗殺されて…

リチャード・ファインマンの泣ける話

アメリカの物理学の黄金期を体現した物理学者リチャード・ファインマンは日本でも知名度が高い。それも幾多のベストセラー、ことに『ご冗談でしょう、ファインマンさん』があるからだ。 もちろん、あの物理学教程でこれぞ天才というイメージを蒸着させられた…

カーツワイルの女性AI ラモナ

アメリカの代表的発明家で「エジソンの後継者」と呼ばれるレイ・カーツワイルは数年前に「ラモナ」という名のAIキャラクターをパートナーとした講演を行った。三人の大統領から賞を受けている。 ラモナは25歳の女性ロックシンガーという設定だ。彼らはコン…

イグ・ノーベル賞の国別受賞者数

「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」のお国ぶりがわかるかもしれないと思い、1991年にスタートしたイグ・ノーベル賞の受賞者数が国別にどうなっているかを調べてみた。 1991年から2014年までの受賞者の出身国(一部推定)をカウントしてみた。法人…

日本人のイグ・ノーベル賞

あまり認知されていない受賞例から書きはじめる。 岡村化石研究所を主催する岡村長之助氏は1996年度のイグ・ノーベル生物多様性賞を受賞した。残念ながら本人はもはや故人となったようで、イグ・ノーベル賞委員会は当人と接触できなかった。残念なことで…

イスラム国とエボラ出血熱の共通性

イスラム過激派から生まれたイスラム国(ISIS)と強力な致死率のエピデミックであるエボラ出血熱は2014年にどちらも出現し猛威をふるい始めている。その共通性はかなりの根深いものがある。 1)周縁から発生した。ISISの勢力範囲はイラクとシリアの政治的に…

20世紀前半のドイツ人とユダヤ人の師資相承の問題

ナチ・ドイツ出現以前のドイツ・オーストリア文化圏は空前絶後の高みにあったというのが相場観だ。 ナチはユダヤ人を排除した。その結果、ワイマール文化は自死した。亡命ユダヤ人はアメリカ合衆国の勃興に手を貸した。 もともと、ドイツにおいてはユダヤ系…

強制重複 台風エネルギー利用

スーパー強力な台風19号はどうやら心配したほどの爪あとを残すことなく東方に去った。 しかし、台風には防災先進国であると自他ともに許す日本はなすすべもなく、国民は身を縮めて各自が家に閉じこもる他ない。警報が出たら指定避難所に逃げ込むのがその次の…

サルたちの地獄 狼のいない世界

捕食者の居なくなった土地が自然保護地区ですら、荒れ始めるというのは有名な事実である。 イエローストーン公園に野生の狼が戻されたのは1995年だ。それより70年前の1926年に最後の狼がしとめられた。しかし、森林の減少は20世紀後半になりだれの眼にも明ら…

強力台風19号のエネルギーもったいない

スーパー強力な台風19号はまもなく日本列島を直撃しようとしている。 防災先進国であると自他ともに許す日本はなすすべもなく、国民は身を縮めて各自が家に閉じこもる他ない。警報が出たら指定避難所に逃げ込むのがその次の自衛策だ。 今回の台風の最大瞬間…

災害は起きる、予想外の順番で

2014年9月時点で、エボラ出血熱は西アフリカで猖獗を極めている。ところで、昨年にエボラ出血熱の流行を予測した人はいない。もちろん、『アウトブレイク』(1995)でハリウッドが映画化したのはもう十数年前だから、多くの人々はその危険性と可能性については…

世界の都市人口の緯度分布

世界人口は極点に向かって増大中だ。その過半数は都市に集中しているはよく知られた事実だろう。 とくに100万人以上の大都市は、今後その数がますます増え、繁栄するといわれる。地方から脱脂綿のように人口を吸い上げ成長する国際都市が経済成長の牽引役…

SFの根源的な愉悦について

久々に大作SFを読み出している。 アレステア・レナルズの『啓示空間』(ハヤカワSF文庫) 本書の発売は2005年だから、それほど新しくはない。その文庫本としての厚さは圧倒的だ。1000ページ強。 なので買うのも読むのもためらっていたが、先般意を決し…

有界な万能シミュレータ

有界な万能シミュレータは存在しない この言明で何を言い表そうとしているか? 有界というのは物理的境界が有限であるということだ。寸法と時間の両方ともそのなかに含まれる。 ここでの、シミュレータはある対象を計算機により擬似的な再現を行う。機械的な…

起源と限界の不可解性

解決可能な問題ではない、そうした科学的な問題があると断言していいだろう。 意識の起源、人類の起源、宇宙の起源などはそうした問いだろう。あるいは科学の起源もそれに含まれるかもしれない。最初の3つの起源は自然科学的な問いであり、科学の起源はどち…

カリフォルニアにて進行中の干ばつ

各種メディアが報じるように2013年1月以降カリフォルニア州は干ばつにある。 2013年の年間降水量は、1895年以降で最小と言われている。 日光が降り注ぎ空気が乾燥して快適な土地であるのが魅力的な楽園が、3年間にもわたり異常な水不足に襲われているのであ…

迷宮的な古書の館

ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』(イタリア語原題:Il Nome della Rosa)を原作とする同名の映画(1986年)があって、その最後のシーンでは舞台となる修道院の図書館が炎上する。 その図書館がこのミステリーの原因ともなっていた。 汗牛充棟と中国では…

世界でもっとも軽快なコンクリート橋

シュバントバッハ橋(Schwandbachbrücke)は優美な姿で知られる橋梁の傑作だ。スイスのエンジニア、ロベルト・マイヨールの設計によるものだ。 1933年に竣工。スイスはベルンの近くにある。「この橋は、繊細で重さを感じさせず、まるで中空に浮かんでい…

人工知能は倫理的でありうるか

キューブリックの『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』的な時代はもうすぐやってくる。 ご承知のように、この映画では、木星探査のため、HALは搭乗員のかわりに宇宙船ディスカバリー号を操縦し、システム全体をコントロー&故障診断し、搭乗員の生命…

ミラー・ニューロンと模倣の社会学

脳科学の最大の発見の一つは「ミラー・ニューロン」の発見である。他者の身体に関する脳の活性部位が同定されたと単純化できよう。 他者の動きを見て、まるで自己の身体が活動するかのように活動電位が高まる神経群があるのだ。 「ミラー」とは自己を写す鏡…

太陽系形成の標準モデル

その昔、太陽系形成の渦モデルなるものがあり、それはボーデの法則を説明するとかで、大いに感心したことがある。いわゆるワイツゼッカー説である。 今日では、それがより精密な「太陽系形成の標準モデル」なるものに置き換わっている。京都モデルという。京…

人のライフサイクルと重心の高さ

オイディプス王の解いたスフィンクスの謎は、こんな問いであった。 「朝には4つ足、昼には2本足、夕には三本足で歩くものは何か」 言うまでもなく「人間」である。 これを人体の重心という観点で総括すれば、生まれた頃は寝てばかりいるので、最低レベルの…