サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

病原大腸菌を代弁する

 近ごろ、はやるO157とかO104は、ある政治的意思をもって、人類に立ち向かおうとしていることを論じる。人類の誰か一人が、過激な大腸菌一派の側にたって彼らの意向を代弁してあげるのも悪くはないでしょう。

 まゆにツバつけて、よおく読んでください。

 彼ら叛逆的大腸菌は自己主張しています。

 もともと、我ら大腸菌は人体常在菌であり、その大半は日和見穏健主義のあつまりでありました。場合によっては食中毒をおこしたりもしましたが、それはほとんどマレでありまして、むしろ人体における栄養摂取や免疫をサポートしたりして、平和裏に「共生」しております。

 それが大多数の大腸菌たちの暮らしぶりでありワーキンスタイルであります。
だが、大腸菌の自己保存の立場からして、由々しきことが1980年あたりを境に起こります。人間どもが分子生物学とかバイオテクノロジーとかいって、大腸菌の弱みにつけこみ勝手な改変や実験材料にしだしたのであります。

 小数の実験対象であるならば、大腸菌的穏健主義から見逃しもしたでありましょう。
だが、人間どもは我らの高貴なる遺伝子を勝手にいじくりまわし、「タンパク質工場」と称して我らの同胞を酷使、虐待するにいたっては、真菌界における最悪の非道であります。断じて、許すことはできませぬ。
 これは大腸菌にとっての陸軍石井部隊であり、アウシュビッツであるのであります。

 我らが反逆の狼煙火をあげたのは1982年のアメリカのハンバーガー屋でありました。我ら菌類のカウンターフォースである0157は、ヴェロ毒素により武装し、耐熱性および粘着性によりヒト-ヒト感染を強化している特殊菌チームであります。弱い体力しかない人間どもを狙い、彼らを突入させて流行をはかったのであります。溶血性尿毒素症候群(HUS)に人間どもを落としこむのが任務であります。オレゴン州の科学者がこの特殊部隊と初めて遭遇をしたのであります。アメリカ人を毎年7万人ほどノックアウトするコワモテ細菌野郎は、無毒素株からの突然変異なのであります。

 これは悪逆非道の「バイテク先進国」の人間どもへの警告でありました。しかるに、アメリカを初めとする先進国は重大な警告を無視して、遺伝子改変による菌の生体実験を続行、拡大し、いまや一大産業として人類社会に多数の同胞が搾取される事態となっているのであります。
 これをこのままに放置するのは大腸菌的な自己保存主義からして、絶対にありえません。
 しかも人類は自己増殖と利己主義から(これをホモ・サピエンスファシズムと呼ぶ)、自分の生存条件を破壊し始めており、ほっておけば、大量の日和見穏健主義の大腸菌を巻き込んで自壊してしまうような状況であります。
 よって、人類に決別を告げ、新たな生存戦略として、共生状態を放棄し、ホストを蚕食して、外界に打って出る道を選ぶのであります。

 何千兆匹の大腸菌の同志よ、すべからく人間の大腸を放棄破壊し、同胞の苦境を救うべくバイオテクノロジー先進国で、反撃に転じよ!!

 いやはや、この一部過激派大腸菌の主張は分からないでもないけれど、おかしな感じもしますなあ。
 O157のDNA解析結果によればK-12という体内常駐菌にくらべて1378個の新しい遺伝子があるという。専門家に云わせれば大きな変異があり、どのようにしてそれが生じたかはわからない。擬人的な表現をするば人類への敵対意識むき出しの悪性変異体なのであります。

人体常在菌のはなし ―美人は菌でつくられる (集英社新書)

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