カナダの原住民のあいだには、つい先ごろまで「ウィンディゴ」または「ウィティコ」という名の狂気の発作が怖れられていたそうです。
他の地域には見られぬ特異な病態が一部の学者たちの関心を惹いていました。
その一人である古野清人の紹介をかいつまんでまとめておきます。
オブジワ族やクリー族などアルゴンキアン語系のインディアン部族はカナダ東部の森林地帯に住んでいます。その部族に見られる特異な狂気が「ウィンディゴ」または「ウィティコ」です。
この疾患は狩猟に従事する男性が、長い間のスランプ期(不猟期)に罹りやすいとされてます。
「病的な強迫観念、吐き気、普通の食物の嫌悪」の症状が現れ、しまいには人食いのモンスター「ウィンディゴ」に取り憑かれたと信じこむようになります。
その怪物の実在性は問うまでもないでしょう。問題は当人がそれを信じこみ家族友人までもが、美味しそうな獲物にみえてくることです。その結果、食人をともなう殺人をおこなうハメとなります。
ウィンディゴは動物を獲物としているが、そのミクターペオ(精霊)を使って人間を捕えて食べる。しかしそれは冬に限られている。人々は人肉を食べるとウィンディゴ怪物になり、しかも人間という非常に力強い<獲物>を食べたその者は精霊が強大になったのであるから、だれもがこの加害者に攻撃を加えることを怖れる。ただシャマンだけが呪術によって倒すことができる
部外者には信じべかららざる信念を当人と共有する、部族のシャマンだけが、この無敵の怪物を退治できるのです。
シャマンは信仰体系の統治者もしくは操作者(オペレーター)なのです。
信仰上の思い込みが殺人や狂気を招く事象は、北米のあちらこちらで実際にあったことが報告されています。20世紀前半まではそうした事件がカナダで報告されていたと古野は記しています。
古野清人はこのカナダの森林地帯の自然を描写していますが、孤独な狩猟活動と森林に住まう精霊という宗教的信念が結びついているというような婉曲なまとめで終わっています。
日本や先進国には同様な人類学的事象はないのでなんとも言えないのでしょうが、ひょっ〜としたら一部の猟奇的な殺人は、そうした信仰上の狂気から発動されることがあるのかもしれません。9.11がそうであったように。
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【ご参考】この素材に依った娯楽タイトルがあります。
ブラックウッド傑作集の「ウェンディゴ」 The Wendigo が典型でしょう。
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