網野善彦の佳作に『飛礫覚書』および『中世の飛礫について』なる掌編がある。
中世人、いや日本人がかつて石投げを盛んにしていたことへの驚きと親しみが同時に披瀝されている。それは祭事であり、戦闘であり、狩猟であり、刑罰であり、反抗であった。すなわち生活そのものだったようだ。
石合戦なる行事があり、印字打なるものがあり、ひいては天狗の礫なる怪異現象にも説き及ぶ。小生はそれに、日本独自の民間伝統「雪合戦」と枕投げを追加しておきたい。
かといって、日本特異ではない。高麗王朝でも石合戦は公式行事だったという。そして、石投げの風習は西高東低だったと網野は朝鮮半島とのかかわりを匂わせている。
個人的な話ながら、京都の神護寺の「かわらけ投げ」の経験を思い出す。あれはかなり昔のことですが、何回も投げました。境内のわきの深い谷に向かって、土器片を投げる行為は、邪気を払うものです。中世に生まれ変わったような、ああ、深い思い出だ。
かわらけ投げがこの寺が発祥の地だというが、網野史学からすれば、これこそ中世庶民の無形文化財かもしれない。
石打ちの刑というのもあった。石を投げるというのが戦闘に組み込まれたようで、武田軍団には礫うち専門の足軽がいたようなのだ。
余談ですが、猿は人に向かってものを投げる。石も投げる。日本猿は人から物を投げるのを学んだのでしょうか?
それが衰えをみせだすのが、鉄砲伝来と平行しているのは興味深いものがある。飛び道具として弓矢は石投げの兄弟分だった。弓矢が鉄砲により色褪せると石打ちもなにやら、力を喪失するのである。
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