サイエンスとサピエンス

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高木貞治『解析概論』の名著たる由縁

 国民的な数学教科書である高木貞治『解析概論』の優れたる由縁を素人的な観点でまとめておきます。

 第一に、コンパクト性。
「こんなに分厚いじゃないか」と不平も出るかもしれません。しかし、えてして散漫で長大になりがちな内容を500頁弱にまとあげている手腕はスゴイ。数の概念から微積分の基本、解析幾何、級数論、複素函数論、フーリエ級数、曲面論から多変数積分まで、初等解析から高等数学まで覆い尽くしているのであります。

第二に、現代性。
 至るところ連続でありながら微分不可能な曲線。ピアノ曲線やコッホ曲線などコンピュータ数学で話題になったことがちゃんと押さえられている。楕円関数やルベーグ積分なども触れられています。微分幾何の初歩まであり、ここから相対論まではあと一歩です。
 半世紀たつのに内容が古びていないのはサスガというか、恐れ入谷の鬼子母神なのです。

第三に、歴史性。
 無味乾燥な定理の羅列ではありません。教育的配慮のためにアルキメデスの放物線の求積の説明やガウスのAGM定理をおりまぜながら、先人たちの見事な頭脳的戦いぶりを絵入りで紹介しています。これは有効ですよねぇ。つまりは、偉大な数学の連鎖を実例に即して教えてくれている。演習問題もその例外ではありません。

 というわけで、先ごろ「包絡線」を調べようとしてあちこちの本を探した。
 なかなか見つからず、ネットの説明は要領を得ず。ようやく見出したのが、昔の教科書『解析概論』の一節であり、その簡明さと分かりやすさに感銘を受けた次第。

wikisourceで『解析概論』がフリーテキスト化されておるのを見出した。それに感化されて本文を書いたのだけれど、この機会にぜひ名著の精神に、そして実物にも触れていただきたい。


解析概論 改訂第3版 軽装版

解析概論 改訂第3版 軽装版