1980年に二人の物理学者が『フィジカルレビュー』に書いた論文は、人類が生存するこの宇宙全体が、真空状態のゆらぎの一時的な安定期でしかない可能性を示した。
その物理学者コールマンとデ・ルッチアによれば、この宇宙が偽りの真空状態がつかの間(百数十億年だが)続いているという。
ここが虚偽の状態でしかないなら、われらの眼前の宇宙は神の見ているつかの間の夢でしかないのかもしれない。この広大無辺の宇宙がただの夢である、そうした逆転的な思惟は現代物理ならではの大ぼらである。それに比肩されるののは、荘子『斉物論』の出だしである。
荘子の説話は、荘周夢に胡蝶となる、であり、この世が夢とはしていない。
その手のものでは有名な演劇『この世は夢』があった。カルデロン・デ・バルカの優れた手腕が発揮されている。
荘子にとっては、現実はどう見ても現実であり、そのなかで相対的な生き物たちがくんずほぐれつ戯れているだけかと疑ったわけだ。
荘子が夢に蝶になり、蝶が見た夢が荘子自身かもしれないと危ぶんだ。
蝶を侮ってはならず、ヒトも侮れずだ。どっちが真実在か所詮、分かりはしない。
であるなら、つかの間のこの宇宙で蝶に夢中になるのもいいものだ。
蕉門第一の其角の磊落な名句をひとつ。
猫の子のくんずほぐれつ胡蝶かな
そう思うとだいぶ気が楽になる。
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