太平洋戦中の面白いエピソードを吉田一彦の「暗号事典」で見つけたので、報告しておこう。
実は日本も暗号が漏れている可能性についてはウスウス気がついていた。しかし、有効な対策が打てないままで終戦=敗戦を迎える。そのイキサツがかなり刻銘に分かったのが収穫です。
アメリカ軍航空機による日本本土爆撃が本格化した1944年11月のことで,保険会社2社に陸軍参謀本部から「統計機使用ニ関スル件照会」という書状が届けられたのが発端であった。手紙は陸軍数学研究会幹事長仲野好雄大佐の名によるもので,会社保有のIBM社製統計機を使用させて欲しいという申し入れであった。
このあとの記述が個人的に興味深いです。
一応「数学研究会」と称してはいたが,本当の名称は「暗号学理研究会」で,陸軍暗号の改良と敵国の暗号解読を目的としていたのである。メンパーは会長に大本営第三部長額田坦,副会長に東京大学名誉教授高木貞治が就任し,委員には後にフィールズ賞を受賞する小平邦彦など,当時の日本を代表する顔ぶれであった。
もう敗色が濃い時期にあわてて暗号の根本的見なおしをしようとしたのですねえ。代数的整数論の大家高木貞治を迎えて!東大の数学者を動員したわけです。
日本の暗号解読チームも頑張った!
当該研究会の成果としては1944年8月1日に,アメリカ軍のM-209 暗号機の解読成功がある
これが例の日本の暗号解読もある程度の成功を収めていたというヤツですね。もう2年早く暗号解読技術の重要性に目覚めていれば、日本も少しは頑張れたといことです。終戦前一年ですからねえ。
吉田一彦のこの本は、その他にもポーランド暗号専門家が来日して帝国陸軍の指導にあたった話などが満載のいい本です。このポーランドがまた興味津々のお国柄なのです。
1923年に日本陸軍の肝いりでポーランドの情報将校コヴァレフスキが来日しています。彼はソ連の暗号解読のスペシャリストでした。三ヶ月の陸軍参謀本部将官の教育がその任務です。
彼の能力と貢献の評価は殊の外高く、勲五等旭日章を送られています。ソ連という共通の敵に対して日本とポーランドは手を組んでいたのですね。しかもポーランドの立場には同情的な日本人もいた。日独伊三国同盟にポーランドも加わる努力もしていたそうです(今となっては考えられぬ事実です)
それにしてもソ連とドイツに分断されるとは何たる悲劇。それにドイツ機甲師団には騎馬兵団で立ち向かい、ソ連にはカチンの森での残酷な運命が待っています。悲劇の国であります。
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