自炊の文化的伝統
いうまでもなく、「自炊」は両面スキャナーの低価格化やハードディスクなどデジタル機器が誰にでも使いやすくなったおかげでここまで普及した。
ではあるが、自炊行為そのものは新しいことではない。
どなたも、学生時代に研究や勉強のため、高価な洋書を複写したり、書き写した経験があれば、すでにあなたは「自炊」の経験者である。
大きな違いといえば、自炊派は原本を捨て去ることだろう。
昔とは道具立てこそ異なるが、「自炊」は「書写」とそれほど違いがない。写経や写本づくりは原本を流布させるための文化伝道行為だったが、こちらは原本=複製本(ベストセラー本など)を物理的に消滅させつつも、情報的には複製化する。
末永く読み続けること、いつでも使えるようにすることという使命はデジタル空間に姿をかえても不易であろう。
最近、自炊の価値を再認識する事件があった。「相撲の八百長事件」である。
新聞などで報じられているように、シカゴ大学経済学部教授のスティーブン・レベット博士がそれを9年前に暴いていたというものだ。
これが報じられているのは2月22日。先に報じたのはどうもNewYorkTimesなど米国紙であるらしい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110222/218548/
ところが『ヤバい経済学』という翻訳書がすでに自炊されていたのである。
そこにはしっかりと相撲への疑惑が日本語で書かれているのではないか!
博士は相撲マガジンからたっぷりとデータを入手する。
1989年1月から2000年1月までの聞に聞かれた、上位力士によるほとんど
すべての取組の結果であり、力士281人による3万2000番の勝敗だ。
彼が見出したのはこんな変則事象だ。
7勝7敗の力士が勝つ割合は半分をほんの少し下回る。これは納得がいく。その場所の成績も8勝6敗の力士がやや優勢だと示している。ところが実際には、7勝7敗の力士が8勝6敗の対戦相手に10番中ほとんど8番も勝っている。7勝7敗の力士は9 勝5敗の対戦相手に対しても驚くほど善戦している。
こうして、相撲のインセンティブのルールがこうした八百長めいた試合結果になっていると分析している。
それはともかく、自炊していても情報が眠ってしまう典型例である。
しかも読んだのにも係わらず覚えていない!ボケの自分!!
相撲疑惑が報道されたとたんに、即座に想起できるような情報の蓄えられ方が、我ら自炊派のあるべき姿だ。それがやはり出来ていないのである。
旧著に自慢げに書いたようなPDFにして全文検索可能にするのは、まだまだ第一歩にすぎない。いや、第一歩ですらない!
ニーズに応じて、自動的に情報が芋づる式に導出できるようになるのが、理想なのである。
だが、そうなるとIBMのWatsonをクラウドで個人的秘書として雇うことになってしまうかもしれない。Watsonはなんと百万冊分のテキストを構造化して知識ベースに保持しているそうなのだ。冊数では100分の一ほどになったが、知識ベースにはなってないからなあ。
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