SFの巨匠、A.C.クラークのひねりの利いた短編に『Fはフランケンスタインの暗号』というのがある。1960年代の作品だから書かれてから半世紀もたつ。
その出だしで、世界中の電話がある日いっせいに鳴る。前日に衛星通信網が接続されたばかりだ。電話は自動交換機が普及し、銀行のデータ交換網も出来上がっていた。
大脳ネットワークにそっくりな巨大ネットワークが地球上に張り巡らされた。その時に起きるのは、「ネットワーク意識の覚醒」だというわけで、冒頭の電話はうぶ声だったわけだ。
当時に比べてみれば、インターネットがあまねく到るところに浸透しており、そのトラフィックは膨大なものになっている。しかも、企業間のネットワークの相互接続は60年代の銀行の振込みシステムどころではない。
しかるに、「ネットワーク意識の覚醒」があったとは到底思えない。電話のうぶ声もなかった。クラークの短編では、電力エネルギーを横取りし、交通事故や渋滞や放送の乗取り、通信のエラーが群発するのだが、それも起きていないようだ。
仮にだが、いきなり「超意識」であるなら、それを避けるであろうとは誰かが指摘していた。すべての先読みができる推論能力と人類を管理できる機械叡知がその「超意識」に備わっているという仮説だ。
その御仁によれば、ひそかにしめやかにネットワークが拡大増殖し、人びとはその成長に奉仕、それも自発的に奉仕させられるようなるだろうと言う。
まあ、それならば有り得ない話ではない。人類は、日々ネットワーク利用に邁進しているようだし、誰もそれを止めようなんて思いもしない。いうなれば、人類はもろでを挙げてWWWに奉仕しているようなものだ。
見かけ上では、「超意識」の存在は区別できないのである。なにしろ先方の能力が人類を上回っているし、「目的」は一緒なのだから。
この検証不能な仮説をどう論破すればいいものであろうか?
- 作者: アーサー・C.クラーク,Arthur C. Clarke,山高昭,伊藤典夫
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