サイエンスとサピエンス

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中東の経済的ジレンマによせて

 アラブ首長国連邦のドバイの野心的な開発は一昨年の経済危機と不動産バブル崩壊以降、停滞してしまったようだ。
 参考:http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2010/02/no_735.html

 実のところ、経済学者たちはオイルショック後に、中東など石油依存国がえた利益をどのように自国経済に還元し、発展に貢献したかを数十年にわたって分析している。
 翻訳の孫引きでしかないが、要点を提示しておきます。

 1990年代にサッチとワーナーが20年間95ヶ国を追跡調査した結果によれば、

一国の資源輸出がGDPに占める割合と年次成長率は反比例する

この有名な論文で、特に中東の産油国の経済は脆弱であると指摘されている。サウジアラビア、ナイジェリア、メキシコでの国営企業もしくは自国企業の育成は、華々しい失敗におわった。彼らの研究のデータは開示されている。
 二度のオイルショックで、経済状況が改善した石油輸出国は、唯一、「インドネシア」だけだといわれている。

 なぜ、こうした結果に落ちこむか幾つかの学説がある。
 資源依存型国家では、産業の基盤を弱体化させる作用がいくつか存在するのだ。

・産業が一次産業にかたより、他産業が発達しない
・勤労意欲や学習意欲が偏在し国民の底上げにならない
・中央集権が強大であり、民主制が根付かない(バラ巻きで不満を抑える)


 石油収入にまとわりついた特殊な地政学的状態を生み出しているのである。これはまるっきり深海の熱水噴出孔に群がる特殊生物群(チューブワームなど)の生き物のようである。石油という地下からの噴出物からのおコボレ以外に生存活動の源がないのだ。

 国連の人間開発指数HDI)でみれば中東産油国の低迷は同情にあたいする。
 2010年でアラブ首長国連邦は32位である。スロベニアの下、ギリシアのはるか下である。2011年でもギリシアの下になったらば、ほんとうに反省しなければなないであろう。

 もちろん、産油国の為政者や支配層は愚かではない。むしろ、とんでもなく高等教育を受けた俊英ばかりである。よって、この事態をよくわきまえておる。
 しかれども、その一例が「ドバイ」であったのだ。また、過去にも何十という「ドバイ」があったであろう。

マスダール計画を思うと心配になるのである。この未来的な脱カーボンのエコロジカルシティ計画を、個人的には成功させてほしいと切に願うものである。人類への多大なる貢献であるからだ。
 ドバイとマスダールを比較すれば、どれほどマスダールが野心的かが際立つであろう。
 ドバイは砂漠の真ん中に巨大な快適居住のみを追求した都市空間を実現しようとした。それは必然的にエネルギー効率を無視したアメニティと景観、娯楽性だけを目指した破格の人工都市だったわけだ。何もインフラがない場所に空中楼閣のように力わざで合成したのである。周囲の自然環境への挑戦のような都市なわけだ。

 マスダールには成功してほしいが、やはり、「ドバイ」の教訓がいかされているかどうかが気になってしまう。金満家のアラブのエリート自身が、お金と権力操作いがいの
じみちな生産現場に関与するのかどうかが。現場における現実創造に深くアラブの若者やエリートたちがのめり込まなければならないと下馬評好きなわたしは思うのだ。

 同じセム民族の名言がある『神は細部に宿りたまう』(アビ・ワールブルグ)