俳句の妙味は感性連鎖をいかに17字に折りたたんで凝縮するかにある
新たな感性の連鎖反応を巻き起こすアルゴリズム圧縮をどのように達成するかなのだ。
例で説明してみる。
古池やかわず飛び込む水の音
この芭蕉の句はあまねく世界に知れ渡っている。ボルヘスもEUの現大統領も知る世界最短の名詩だ。
この句の畳み込まれた縮充性をみよう。
古池には無人さと静かさが、それに幾層にも積み重なる時間がある。
その重層な沈殿を突き動かすのは、姿のないカエルの、瞬間的な動き、動きの気配である起きたと同時にそれは消え去る。須臾のあいだに生命の存在が開示され、そして
跡形もなく静寂に溶け込む。その消滅の速さは古池の長きにわたる静けさをますます
感じさせる。
こうした重層性は幾重にも共鳴して相互に韻律を響かせる。
無人の淀んだ古池→沈黙と静止の空間
カエル蠢動の音→瞬間のイベント
そのさざなみ→波が静かに水面に広がる
→やがて動きが無に帰す古池
これらの連鎖的な対比により、永遠の静寂の支配が鑑賞者の心を満たしてゆく。