サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

第三次世界大戦勃発の潜在的可能性を考える

 ゴルバチョフが書記長となり慌ただしくソ連が分解した後の時期は、核戦争による最終戦争の脅威が遠のいていった期間であった。
 レーガン政権でのSDI構想などはこうした流れの中での珍妙なエピソードであったとされるようになった。それというのもパックスエコノミカのなせる技であった。
 その後は皆さんご存知のとおり、共産圏をも巻き込み世界各国はひたすら経済成長を追い求めるようになった。そのおかげで、戦争は地域紛争に局限されるようなった。*1

 資本主義経済モデルの卓越性(その競争相手の社会主義モデルの後進性)が疑い得ないものになったことも影響する。経済システムにおける「イデオロギーの終焉」である。計画経済は市場経済に敗れ去った。
 だが、こうした平和は恒久的なものかといって安心しているわけにはいかない。一次、二次と世界大戦が起きた現実からすれば、世界戦争の悪夢は消えたわけじゃない。

日本の慣用句にあるではないか。
「二度あったことは三度ある」
「三度目の正直」
おまけに、オヤジギャグをかませば第三次世界大戦は大惨事になる」

なぜか。
 なるほど、世界システムは「資本主義モデル」の汎用化=グローバリゼーションの拡大傾向で安定しているようだ。金融資本の国境をまたがる交流、貿易の相互不可欠性などB2B安定化要因やインターネットや移民・観光などの各レベルの交易によるC2C安定化要因に加えて、国連などの国際連携組織の輻輳化で巨大な戦争が起きるなどとは到底思えない。
 そう、小生もそう思う。

 けれども安定性が複雑な機構のうえで成り立っているならば、それを突き崩すのはいともたやすいのではなかろうか。
 資源ナショナリズムがその不安定化要素となりえる。「資本主義モデル」は資源に依存する。どれだけエコだ、省エネだといっても、しょせん資源を食い尽くしつつ肥大する仕組みだ。
 エネルギーだけではなく希少資源、食料、ひいては水すらも争奪対象として浮上してきている。自国の安定化をはかるために少ないパイをうばい合えば、価格が高騰して資源配分の効率性は低下する。
 それに輪をかけるのが「地球温暖化」である。一律に温暖化するのではない。気候変動が不安定化するのだ。ヨーロッパはこの数年、熱波だけでなく大寒波に見舞われている。アメリカもそうだ。2010年のパキスタンの洪水は国土の1/3を襲った。今季の豪の洪水の規模も史上最悪と伝えられている。

 そうなると食料生産、エネルギー需要といったものが不安定化するだろう。価格が乱高下することになる。ガソリンがすでにその症状を呈している。*2 
 こうした不安定化要素が、単独で生じているうちはまだいい。問題はそれらが相互に結びついて、過激な宗教運動や民族浄化などの排他思考などの社会不安定要因や絶滅種増大などの生態系不安定化要因などにからみあいつつ制御不能な動態を醸成することだ。

 『複雑系によるカオス』と小生が呼ぶ、非線形な混乱状態に落ち込む。その時に第三次世界大戦はその奇怪な姿をもたげるはずだ。
 戦争の規模は奇妙な法則に従う。それは「べき乗則」である。幸いにデカイ規模の戦争ほどまれになる。第二次大戦は史上最大規模の破壊を引き起こした戦争であった。
それ故、第一次大戦の三十年後に起きた第二次大戦のように数十年くらいでは第三次世界大戦は起きないかもしれない(1960年代のキューバ危機はその最大の臨界だった)
1940年代に第二次世界大戦が起き、おおよそ一世紀がたつ。サラエボの銃弾がドミノ倒しで世界大戦になった第一次大戦。経済不況から世界を二分する植民地防衛と争奪戦となった第二次大戦。第三次世界大戦はそれとは異なるパターンの事態連鎖で発生するだろう。誰にも予見はできない。

 そう、油断はできない。
 ブキャナンが歴史の法則としている「べき乗則」に従うならば、破局のルールはこうなる。

防火対策を講じるほど山火事はデカくなる

もちろん、もう少々事実に即した戦争研究というのもある。
 猪口邦子の『戦争と平和』第二部「戦争の一般理論」で詳細に解説されている歴史・統計的研究がその代表であろう。ソローキンの戦争指標、シンガーなどによる発生時期の季節性、ラメルの戦争の政治的相関因子の研究など、盛りだくさんである。
 大いに参考になる研究であるのは間違いないにせよ、次回の大戦には役に立つとは思えない。どれも決定的な学説ではなく、それらの時代性の縛りが大きすぎるからだ。


 なんとかしなくちゃ、そう思いながらパワーや圧力をかけると非線形系は予想しない振る舞いをしだすのだ。傍観しろとは言わないが、力づく政治(西洋流のパワーポリティクス)は混沌を招くだけなんじゃなかろうか。
 まったくのナンセンスとされるかもしれないが、無為によって剛を制する老子的政治力学は、この場合、有効な可能性がある。
 逆説的であるが、今日こそは古代中国の叡智が必要なのかもしれない。

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)


 邦書では最も目配りの利いた戦争論の研究紹介がある。

戦争と平和 (現代政治学叢書 17)

戦争と平和 (現代政治学叢書 17)

*1:バルカン半島ルワンダなどでの民族浄化のような危険な動きがあったのは無視すべきではないだろう

*2:太平洋戦争はエネルギー問題がひとつの要因だった