SFはかなり特殊な小説ジャンルだと思う。とくにハードSFはテクノクラートの夢想の性質をことさら反映して、特異な物語になっている。
自然科学がハードSFのキモであるのは言うまでもないけど、その科学の扱いは聖書における神の扱いに似て、途方も無いものだ。
自然科学は小説世界においてその原理や法則が世界の構築の基盤になるからだ。いってみれば究極のリアルなのだ。
誤解を恐れず断言すれば、自然界は科学にひれ伏すのがハードSFの世界だ。
従って、その科学の全能性がいかんなく披露された小説にファンは酔いしれる。自然科学をわきまえてそれを想像の限り拡張するならば拍手喝采だ。
幼児的全能感に酔いしれるのだと思う。
科学の理解力やガバナンスのまえに敵うものなし。その無限のパワーは全時空を貫くというのが、ハードSFファンの無意識の確信なのだろう。
その例示を以下のイーガンの文章を読み給え。
トフーホトの決定論的量子力学ではプランクスケール以下の物理変数が有限個あり、その量子の振る舞いは外部からは確率的にしか理解できないものとなっている。ベルの不等式は解消できることを証明した
とんでもないでっち上げがインパクトを与えるのだ。
- 作者: グレッグ・イーガン,鷲尾直広,山岸 真
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/09/22
- メディア: 文庫
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