M.D.コウはマヤ考古学の世界的権威と言っても過言ではないだろう。もう、半世紀以上マヤ文明の歴史的解明に第一線で、挑み続けている。
「歴史」といえるようになったのは、マヤ文字がほぼ解読できるようになったからだ。かつてはその奇怪な象形文字は多くの解読者の挑戦を拒み続けていた。せいぜい暦の部分、例のマヤ暦が解明されたくらいだった。
『マヤ文字解読』はあまり知られてはいない、その解読への歩みを丹念に一般向けに紹介してくれた本というだけでなく、マヤ文明の概要やその精神世界へのアプローチともなっているところが読ませる。
マヤの象形文字は表意文字か表音文字か?
それは両者を含むというのが、回答だ。表音部分はデ・ランダの記録が手がかりとなった。表意部分は、実にエジプトのヒエログリフの解読と同じような道筋をたどり、ロシアのクノローゾフの努力によりその意味が解読可能となった。
歴代王朝や戦争など多くの歴史的事件は碑文から読み取れているのでありますな。
コウが指摘する古代文字の解読条件は示唆的である。
1)十分な量のデータがあること
2)どの言語で書かれたかがわかっている
3)既知の文字による記述を含む2言語併記文書の存在
4)文化的文脈が判明している
5)表語文字に関しては参照できる絵がある
マヤ文字に関してはほぼすべてが満たされていた。そうはいっても、やはりクノローゾフがいなければ、解決は遅れていたであろう。
そういう意味では、このロシア人はシャンポリオンやヴェントリスと並び称される古代文字解読の英雄であった。が、彼が死去したときには世界のマスコミではほとんどニュースとされなかったし、その功績も人々にはベールがかかったままであった。
その意味で『マヤ文字解読』はクノローゾフの顕彰の書でもあるのだ。クノローゾフは1998年に亡くなった。
最終章はなかなか示唆的というか黙示録的である。まずはマヤ学の学会の終末論的状況を慨嘆している。ポストはなくなり、穴掘屋のテーマも予算も削りさられている。空いた教授席は飢えたポスドクの争奪戦の的になっている。日本とそれほど変わりはないのだ。
そうしておいて、2012年の12月23日に終末を迎えるという例の「予言」を引いている。
もう2012年はとうに過ぎてしまったけど、コウはこう書いている。
たぶんわれわれはみな破滅に向かっているのだろう。ユカタンのマヤの賢人はみな、2000年と「少し」で世界が終わると予言している。
この碩学が暗澹たる気持ちになっていたのは理解できる。彼は『チラム・パラムの書』を結尾に引用している。
そして空は割れ
そして大地は持ち上がり、
そしてそこに始まるのは
13人の神々の書。
そして起こるのは
地上の大洪水、
そして立ち上がるのは、
偉大なイツアム・カブ・アイン
言葉の終わり、
カトゥンの閉幕。
それは洪水、
それは終わりをもたらす、
カトゥンの言葉に。
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日本語の表記法がマヤのそれと一番近いのだという話などは興味深い。日本人が解読できた可能性もあったわけだ。それにしても、これほどの本が翻訳されて10年経つのに、再版もされていないというのは不思議ですな。
- 作者: マイケル・D.コウ,増田義郎,Michael D. Coe,武井摩利,徳江佐和子
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2003/12
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