以前にも同様な比較をしたが物理学の20世紀の最初の16年間を振り返っておこう。ちょうど100年前の新世紀の始まりの16年で物理学上の革命が起きていた。
まず、1900年(明治33年)のプランクの量子仮説は19世紀であったからここで触れてはいけないのだ。しかし、この仮設が量子の世紀を決定づけたとも言える。
我らの電子的器具は量子力学なくしては成立しないものばかりだ。半導体の理論は量子力学の固体物理への応用だし、その理解のうえにチップは組み立てられているのだ。その他もろもろの電化製品なども右に倣えだ。
その直後の16年の出来事を並べてみよう。
1901 マルコーニ 大西洋横断無線通信
1902 リチャードソン 熱電子放射
1905 アインシュタイン 光電効果、ブラウン運動、特殊相対論
1908 オネス ヘリウム液化
1911 オネス 超電導
1913 ボーア 原子模型
1916 アインシュタイン 一般相対論
まだ、量子力学前夜ではあるが、基礎理論と応用の幕開けは感じ取れるだろう。
第一次世界大戦を挟んで、量子力学が動き出す。
1923 ド・ブロイ 粒子と波動の二重性
1925 ハイゼンベルク 行列力学
1926 シュレディンガー 波動方程式
1928 ブロッホ ブロッホの定理
1933 オネス 完全反磁性の発見
1937 ディラック 相対論的波動方程式
この後は第二次世界大戦が基礎研究を封じ込めていく。
21世紀はどうだったのだろう?
基礎物理に関する特筆すべき事件は「標準模型におけるヒッグス粒子の発見」が2012年にあり、2016年に一般相対論が予言した「重力波」の観測に成功。
その2件くらいだろうか。
かつての超弦理論に代表される万物の理論や大統一理論(GUT)は影を潜めている。
10年前くらいはしきりに日経サイエンス(サイエンティフィック・アメリカンの邦語版)では物理学や宇宙論の革命が叫ばれていたが、それも静まりかえっている。
もちろん今世紀になってもノーベル物理学賞は毎年出されている。対象はあっても、その対象の「基礎」性や「汎用」性は明らかに20世紀初頭のもの比べれば、応用的なものか、20世紀の理論の予言を裏付けたものに限られている。
もちろん、線形的に大発見が続くわけではないのは、アインシュタインの光量子仮設からド・ブロイの物質波まで18年も経過していることからもわかる。だが、相対論級の理論的ブレークスルーは21世紀に起きていないのも事実だ。知らないだけ、評価されていないだけか。それは実験的検証の困難さによるとイイたい(後述)。
つまりは、21世紀は「観測の世紀」の予兆はあっても、物理学のさらなる革命の兆候はないというべきなのだ。
20世紀の量子革命の果実である情報通信技術の革新を享受しているというべきなのかもしれない。
21世紀の重大発見の2件、ヒッグス粒子や重力波の観測を可能にしたのも精密測定機器を実現した高度な電子デバイスと情報処理技術の賜物なのだから。
ヒッグス粒子を実験装置に出現させるには大型ハドロン衝突型加速器 (LHC)なる精緻にして巨大なシステムを必要としたし、重力波についてもレーザー干渉計重力波観測所(LIGO)という6億2000万ドルのマイケルソン・モーリーの実験の数千倍の仕組みがあったればこそだ。
LHCやLIGOを20世紀初頭の実験装置、マルコーニやリチャードソンやオネスの手づくり感のある実験器具と比較するまでもないだろう。
仮に先端物理理論、Dプレーンや量子重力理論が真だとして、それが実験的検証を受けるのは相当先であるということも示唆している。その場合、実験装置のスケールはLHCどころではないだろう。組み立てるためには惑星間規模の加速装置が必要になるのかもしれない。それはそのまま重力波観測同様に百年先にならなければ判定できないようだ。
ビッグサイエンスというのも時代遅れなのかもしれないが、21世紀の大発見が途轍もなく大掛かりな実験装置に依存しているというのは、基礎科学の進歩の停滞を象徴しているのかもしれない。
LIGOの2つの干渉装置の実験サイトは4000キロ離れている。
1990年台にジョン・ホーガンによって先端科学の展望は出されていた。21世紀にそうなるとは思わなんだ。
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