サイエンスとサピエンス

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ポリュビオスの国制循環論

 古代ギリシアの三大歴史家というと、歴史の父ヘロドトス、それにアテナイの興亡を光芒のうちに描き尽くしたツキジデスまでは名が知られている。しかしながら、3人目にポリュビオスを名指しできるヒトはそうとうに歴史に造詣が深いといえる。
 ポリュビオスは第二次ポエニ戦争という地中海全体を巻き込む、壮大な大戦の当事者かつ敗者でもあり、また、勝者の一員である大スキピオ・アフリカヌスの側近として、大戦の結末をつぶさに体験する機会にも恵まれた。

 この優秀な史家はギリシア都市国家アレクサンドロス後継者の王国がローマ共和国に併呑されてゆく、そうした歴史の終結を目の当たりにすることにもなったのだ。「実用的な比較人類史家」と林健太郎に評されている所以である。
 背景はここまでとして、史家の歴史理論である国制の循環論=アナキュクロシスだ。
 王制が優秀者支配制に移り変わり、優秀者支配も混濁すると僭主制に移る。そして、短期間で僭主制は腐敗し僭主制から民主制となる。やがては民主制も堕落し、衆愚制から暴力的統治形態まで落ち込むという、そうした循環史観を最初に主張したのだ。

 自分の知る範囲では、古典期アテナイポリュビオスの理論に近いかたちで、没落していったといえる。ローマの強さは混成体制にあるとした。だがしかし、第二次ポエニ戦争の勝者となったローマに対して史家はすでに滅亡の予兆を感じているとされる。たしかに、共和政ローマはこの後に一世代と持たなかった。だが、ローマ帝国となって史家の予兆をはねのけるような成長ぶりを示した。

 現代の国際社会ではどうだろうか。
民主制は現代社会においても大きく揺らぎだしている。多くの民主制国家で、その赴くところは暴力的統治になるような気配が漂っている。

 彼の『歴史』全巻は邦訳がある。全訳とはいっても現存するポリュビオスの「世界史」をかき集めたものである。全4巻ものだ。
 循環史観を説いているはこの第三巻の後半であるのだ。史家は理論家としてではなく、経験則として国制の循環を記載している。ややもすると教訓調であるのは弱点ではあるが、現代社会には欠けている長期的視野がここにある。

ポリュビオス 歴史〈3〉 (西洋古典叢書)

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デモクラシーとは何か

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自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)

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