サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

旅人の憩い デイヴィッド・マッスン

そこは黙示的戦区であった

 これが忘れかけていた珠玉のSF名編の始まりの文。なるほど時間もののSFは映画やアニメなどあらゆるコンテンツに登場するようになった。『君の名は。』のようなロマンチックな名編もいいだろう。

 けれど、この『旅人の憩い』のように人生の深みが垣間見える作品もある。

本作品「戦士の憩い」と改題しても通るだろう。

 時間線が極に向かうにつれ収束する異世界の男の人生の長く、そして短い一コマを描いている。

 未知の敵と過酷な戦闘を繰り広げている前線から幸運にも解除となり任務から解放されたH。銃後の平和な家庭生活を築きあげた矢先、家族に別れを告げる猶予も与えられず同じ戦場に呼び戻される。それは現地時間で数十分に過ぎなかった...。

 これは人生ではままあることだ。

 仕事に明け暮れるビジネスマンは家庭での時間はあっという間に過ぎ去る。孝行する間もなく父母は先立ち、妻とはろくに会話もできず、子どもの成長にも深く関われない。家族それぞれに思いと別れを告げるいとまもなく、仕事がすべてを支配するという生き方。

 過酷な競争に身を挺して働き、自分自身でありえた時間はひどく短い。

そんなことを感じているあなたに読んでほしい現代の寓話が、『旅人の憩い』だ。

数十年前、SFマガジンの「時間SF特集」(1977年1月号)で初めて出会った。

 もう、こんな深いSFとの出会いは二度と体験できないだろうなあ。