『シン・ゴジラ』のラストシーンで尾のなかに人体が見えるのが話題となっていた。
その一つの尤度の高い解釈をひねり出して知人に説明したが、反応がイマイチだった。
宮沢賢治の『春と修羅』が行方不明となった牧教授のヨットでツルの折り紙ととも残された
冒頭の場面とのつながりに着目するのがポイントだ。
折り紙のツルは超生物であるゴジラのDNAの立体構造を解明するヒントとなった。そして宮沢賢治の詩集もまた、動機に関するヒントであると自分は推測している。
『春と修羅』は複雑な詩集だ。法華経に帰依した賢治は自らを燃え尽くしてまで生きとし生けるものの救済を目指した宗教的な情熱の書でもある。だが、その反面、自らの内なる魔的な部分にも触れた一節がある。
「春と修羅(mental sketch modified)」なる主題的な詩がヒントとなる。
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
修羅とは阿修羅のことであり、帝釈天と戦うデーモン的存在である。この詩は詩人のうちなるデーモン的なものとの相克を示すというのが、文芸評論家の解釈である。
とくに精神病理学者の福島章の病跡学的な評価である。おのれの怒りと暗闇を賢治は記したのだと。
ここからSF的な解釈になる。
牧教授は何らかの憤り(公憤である可能性が高い)に駆られて、己のDNAをゴジラのDNAに転写。合成した。人類の異種DNAを取り込むことでゴジラはシン・ゴジラに進化した。ハイブリダイゼーションである。
よく知られているように大腸菌DNAにはウィルス遺伝子が取り込まれており、大腸菌の抗生物質への耐性獲得に役立つことがある。時としてそのウイルスが大腸菌のなかに現れて本体を食い破り繁殖することもある。
つまり、ハイブリダイゼーションの結果としてゴジラの尻尾に出現したのは牧教授の身体なのだ。阿修羅となった牧教授はゴジラにおのれのDNAを統合したのだというのが、自分の遺伝子工学的な解釈だ。
これで冒頭の詩集と折り紙はDNAにつながり、エンディングの謎の示唆となるわけである。
【参考資料】
精神の病跡学から詩人の光と闇を明らかにした。明らかに庵野監督好みの評論だ。
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