サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

傍観者からのアメリカの医療研究の眺め

 知人の小児科の教授がアメリカの医学研究が低迷していると言うのを意外な思いで聞いた。20世紀を通じて医学の先端はアメリカが担ってきたと思い込んでいたからだ。
 それに関連して幾つかの情報が耳目を引いたので、紹介しておくとしよう。
日経サイエンス2011年01月号『ゲノム解読から医療へ 進まない革命』
 2000年にヒトゲノム解読の達成をホワイトハウスで宣言してから、10年。

生物学の研究には革命と呼ぶにふさわしい変化が起きたが、今のところ、医学的な成果はほとんどない

 と記事要約は伝える。
 糖尿病やがん、高血圧に関わる遺伝子の原因となる遺伝子を突き止めて発病を防ぐ、そういう素人理解でいたが、正確にいうとこれらの病気の人々に頻発しているDNA変異が悪人だという仮設「共通変異仮設」が研究を主導してきた。
 どうもそうではないらしいというが、研究者たちの「弁明」である。それが正しいかどうかよりは、医学的貢献が少なかったという事実が、アメリカ医学の低迷に関係するのではないかと、そう外野の人間は考えてしまうのだ。

 創薬の行き詰まりも気になる。最先端の分子化学テクノロジーで自由に薬物を創生できる、というのが、これも外野の傍観者の夢だったようなのだ。
 その一つの表れが、昨年の「生物多様性条約」だ。その主目的は貴重な種の保存というより、資源としての生物種から得られる利益の最大化と共有だと理解している。
 そんなうがった解釈はともかく、生物資源から様々な化学物質を発見して産業に利用することが当時のメディアでも取り上げられていた。
 例えば「クローズアップ現代」( 2010年10月12日 放送)

 これは製薬業界が手詰まりになりつつあることを暗示してはいないだろうか?
ゲノム創薬は低迷しているのだ。生物資源から薬品を見出すほうが有望なのだろう。
アメリカの製薬業は強い。売上高ランクではこうだ。

1位 ファイザー (アメリカ)
2位 メルク (アメリカ)
3位 サノフィ・アベンティス(フランス)
4位 グラクソ・スミスクライン (イギリス)
5位 ロッシュ (スイス)

 アメリカの優位は未だに揺るがないが、その主力はゲノムではないことは確かであろう。
方法論的なデッドエンドがアメリカ医学全体に響くかどうかは、まだ、評価できてはいないものの、気になる動向ではあるので、引き続きウォッチしてゆく。

 【参考】新薬開発は途方も無いコストとリスクが伴うのは、この本に丁寧に解説されていた。

新薬ひとつに1000億円!? アメリカ医薬品研究開発の裏側 (朝日選書)

新薬ひとつに1000億円!? アメリカ医薬品研究開発の裏側 (朝日選書)