レオナルド・ダ・ヴィンチは「天体の運動を足下の土よりよく知っている」と言ったそうですね。
天体の運動は幾何学的な情報だけで、その理解のためのモデルは比較的シンプルなのでしょう。そして、ニュートン力学が生まれ。素粒子を扱うための量子力学まで成功の連鎖が連なっています。
それにひきかえ、土はどうやって語ればいいでしょうか。色や手触りだけでは何も語ったことになりませんね、土というヤツは。
視点を替えましょう。
遠い過去から動植物と微生物たちは土を舞台にして存続してきました。土は生き物たちの生と死の交錯する場であり、死と生のサイクルのトポスとしてあったわけです。生命を育む故郷であり戦場でもあります。
その理解が未だ不十分なままなのに、現代文明によって土壌は急速に失われつつあります。
巨大な大都市というのは肥沃な土地を潰して営まれています。周辺の大地を食いつぶして成長しています。周りの土地にスプロール化することで豊かな土をコンクリートとアスファルトで塗り固めておるわけですね。
一方で急成長する人びとの食糧確保のためにランドラッシュという農地の争奪戦も起きているのは皮肉なことであります。
日経サイエンスで報じていたように窒素循環は炭素循環以上に地球の表層のバランスを突き崩しつつあります。窒素は大気中から収集されて化学肥料に姿を変えて、大地に投入されています。それがグリーンレボリューションの一大成果だったのです。20世紀の人口爆発の重要な要因です。
食糧増産と引き換えに大気中の窒素は工業製品となりました。それがまた土壌崩壊を招く。河川から流れ出て湖沼や海洋の富栄養化を起こす。
「土壌改良」という名目で化学肥料を混ぜ込むのと並行して、殺虫剤や雑草排除薬剤を散布する。これが土壌の内なる生態系を破壊するのが、ようやく20世紀後半に理解されるようなります。
レイチェル・カーソンが警告した動物レベルの生態の破壊に先立って、微小昆虫の生態破壊がありました。だがそれ以上に複雑な深部宇宙界が土壌にはあります。高等動植物を支える昆虫界、それを支える菌類、それらすべてを支える微生物界の生活相が相互に入り組みながら広がっている。単純にいえばそれは食物連鎖のピラミッドなのです。
その一つであるダニやトビムシ、ミミズや蟻などの昆虫レベルの生態の解明はまだまだです。
腐植土もそうです。農民たちの宝ものである腐植土は土壌生物たちの活動の成果です。それはあらゆる「動植物」の死の結実でもあります。輪廻転生を信じるものたちには腐植土のなかに六道があるのかもしれません。
天国と地獄は腐植土にあるのでしょう。
【参考文献】
岩が土となるまでをわかりやすく紹介。生命のふりかけが重要なのね。訳者の一人である石弘之氏はこんなに古くから活動しているのだ。
- 作者: ピーター・ファーブ,石弘之,見角鋭二
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土が原因で滅んだ文明もあったのだが、現代文明の土壌崩壊の傾向と無対策を考え込んでしまう。
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