歴史というのは何とも不思議なものだ。単線的な個人の人生のあゆみでもなければ、一族の系譜でもない。
そもそもは、組織と社会といったものの由来や変遷を出来るだけ筋道立てて理解としようと試みだった。
東西の代表格でいうと司馬遷「史記」とヘロドトス「歴史」が史学の黎明であった。その後の東西の歴史記述はこの二つで定式化されている。
「史記」は「本紀」、「書」、「世家」等々と構造化している。「本紀」は皇帝伝、「書」は楽書や礼書など仕来りや伝統についての書籍のまとめだ。とにかく時代の推移というものを手元の情報から分厚く再生しようとしている。
一方のヘロドトスはどうか。
これはどでかい物語りに近い。地誌も民族誌(ミイラ製造法なども含まれる)もそのなかに含まれるが、ペルシア戦争という一大イベントの英雄的な物語りなのだ。ギュゲスの指輪など伝奇的小話もある。総体として、バルバロイ(野蛮人)に対してギリシア人の愛国心を鼓舞させるために書かれたプロパガンダといってもいいだろう。
読んで面白いのはヘロドトスであり、重層的な通史という意味では司馬遷である。
この比較では司馬遷のほうが、資料的な厚みが優っている。
始まりへの思考という一点においては、司馬遷のほうが起原を追求する姿勢が明確だった。ヘロドトスはペルシア戦役という一大イベントのキッカケに眼が向けられていた。
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蛇足:これを書いたキッカケはラファティの短編「九百人のお祖母さん」だ。世界の始まりを知るお祖母さんをひねりつぶせ無かった話だ。
すべての始まりを希求する男の失敗に終わった通過儀礼。
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