トロツキーは疑いもなく前世紀の英傑の一人だろう。
だが、革命を地表に現実化したその能力は認めるにしても、その人間性についてはやはり大きな疑問を呈せざるおえない。
1921年のクロンシュタットの反乱の始末がその証拠だ。
この水兵たちこそは革命の先導者だったはず。しかし、ひとたび彼らが反旗を翻すと軍事委員としてトロツキーは水兵たちを断固、粛清する。
血の粛清だ。白軍のコズロフスキー将軍の陰謀と決めつけ、ボルシェビキ独裁という魔道を開くわけだ。
この水兵たちは10月革命に貢献し、さらに中央政権の専横に抗議をあげた。
同志労働者、赤軍兵士ならびに水兵諸君。われわれは、党派の権力のためでなく、ソヴェトの権力のためにたたかっている。われわれは、すべての労苦している者による自由な代表制を支持しているのだ。同士山諸君、諸君らは迷わされている。クロンシュタトでは、全権力が革命的水兵・赤軍兵士・労働者の手中に握られている。モスクワ放送が諸君らに語っているように、コズロフスキー将軍に率いられているといわれる自衛軍の手中にあるのではない。
こうした声明にもかかわらずトロツキーは徹底的に弾圧する。
政治的に対処は正しかったかもしれないが、どうにもやりきれないものがそこにある。
中央政府を占有する、そんな権利はボリシェヴィキ政権にはありはしない。労働者の言論を圧砕する権利などは、もっとありはしないはずだ。しょせん理想論かな。
トロツキーの『自伝』に少年時代に感じた義憤の記憶がある。
ある日のこと、夕暮れまで馬を水辺でほったらかしにしていた牧人が、管理人に長い鞭でぶたれていた。「なんてひどいことを!」モーニャが言った。私もひどいと感じた
この思い出は大量粛清の主犯者の人間性を疑うのに十分ではないか?
つまりは革命を閲して彼は一種の非人間性を身につけていったのだ。そういうものだ。
でも、軍人が「一将功成て万骨枯れる」よりもさらに酷いと言えないだろうか。
スターリン以前に恐怖政治はすでに始まっていたのだ。
トロツキーの『自伝』にはクロンシュタットの反乱についての私的感想は何もない。
この沈黙も気に入らない。
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