かねがね思っているのだけれど、地球温暖化がこうも興味深いのは、それがSF的だからであります。
今年は一年中大気が不安定でしたし、アメリカではNYをハリケーンが襲う時代になってますし、北極圏の氷は最小となるやら、北太平洋の海水の酸化が始まるやら...もう、危機予兆てんこ盛りです。
ああ、それなのに何もできずに手をこまねいているというのもSF的なヒネリとアイロニーがあっていいですなあ。SFジャンルで言うなら終末ものです。
何も手を打てないのは、先進国のご都合主義と新興国のエゴのせいなわけです。それどころか、エネルギー使いまくり最先端国アメリカはグリーン・ニューディールの経済効果がないのでそそくさとシェールガスに乗り換えて温暖化を加速させようとしてます。京都議定書を批准していない日本は、反原発にかまけて火力発電フル稼働だしね。
科学者たちは善人ぶって危機だけを声高に叫んでます。それにつられて、COPでは年々、気温上昇の予想を高くしています。
でもね、地球温暖化は科学技術が招いた危機だといえるんですけどね。
歴史的に突き詰めると科学革命、産業革命とヒューマニズムという西洋起源のうねりが、他の生ぬるい文明、でもエコロジカルで持続可能な文化をもつ伝統を淘汰した結果、世界中の人々が「豊かさ」なる西洋起源のライフスタイルを目指して狂奔するようになったのが、始まりなんでしょう?
それと、危機を予告してくれるのは有りがたいのですが、有効な対策は何一つ打ち出せないでいるのも困ったものです。まさにアラル海現象ですね。*1
この大しくじりは、科学革命を皮切りにしているのを重々記銘すべきでしょう。つまりは、科学者や技術者は資本主義モデルの成り立ちに本質的な役割を演じたはずなんです。資本主義モデルは環境収奪による経済成長と豊かさ=金使いの荒さを重視していました。それにくわえて、多様な文化や文明をすべて併呑してしまった資本主義モデルの!
科学技術による人類文明の終末というのがSF的といわずしてなんと表現すればいいんでしょうか。地球全体が人類の科学技術と経済的な繁栄のせいでガタガタにされてしまうのですからね。
現代文明のタイタニックモデルというのはいかがでしょうか?
絶対不沈なる技術過信が、乗員丸ごとを破滅に引き釣りこむ。しかも、救命ボートは少人数分しかない、というのは欧米人の好む歴史的破滅モデルです。
技術過信&SF的な文明の興亡というのは別の表現でいえば宗教的なイベントでもあります。正確にいえば黙示録的な出来事なのです。想像を超えた大きな転換点に人類は立たされているわけです。これも、正確に言えば転換点=ターニング・ポイントではなく、ターミナル・ポイントです。
ちなみに個人的には、近い将来に現代文明は滅ぶけれども人類は滅びはしないと思います。それは「資本主義モデルが熱的死をとげる」と表現できるでしょう。文明の熱的終焉です。
資本主義モデルの象徴としての自動車(モータリゼーション)は排ガスと炭酸ガスをまき散らしてます。他方、モーバイル機器である携帯電話は強力なCPUとクラウド・コンピューティングで熱汚染を分散化しています。そういえば、終末預言の歴史家ヘンリー・アダムスは近代文明のシンボルが発電機であるとしています。
熱的死の二大機械、自動車と携帯電話は大量消費の願望を集約しているのです。熱力学が世界の終末を予告するというのは新しい理屈ではなく、19世紀にも「宇宙の熱的死」という話題が西洋科学界で熱心に取り上げられました。それが経済学者ジェボンズの「石炭問題」などにも投影されてます。
経済学者シュンペーターは「心身症」で資本主義は自滅すると予想していました。そうではなくて、温暖化ガスと無数のCPUとエンジンの発熱のうちに熱的終焉を迎える確率が高いでしょう。経済学的な行き詰まりではなく、環境における熱平衡でギブアップするのですね。
どこかの大企業や国家権力ではなく、大衆自身の手で文明の首を絞めているのも神話的かつSF的でありますね。
ヘンリー・アダムスは中世世界との対比で文明の熱力学的終焉を予告していました。なぜかアダムスが選んだのはギッブスの相法則なのが変だが意味ありげだ。
- 作者: ヘンリーアダムズ,Henry Adams,野島秀勝
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2004/12
- メディア: 単行本
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同じ原著はこちらで。
Henry Adams 『Mont-Saint-Michel and Chartres』(原著英語版)pdf
さらに、より歴史哲学的な展望をヘンリー・アダムスはこの本で問いかけた。
Henry Adams 『The degradation of the democratic dogma』(原著英語版)pdf