三浦俊彦の「可能世界論」は刺激的な良著であるのは間違いない。様相論理学の拡大解釈によるスペキュレーションである。ある命題Pが必然的ある、可能的である。それを世界wで命題Pが成り立つと考え、「必然的真理をあらゆる可能な世界における真理、可能的真理を少なくとも一つの可能な世界における真理」と解釈し直すことがもたらす論理的帰結を追求するわけでありますな。
ところで、ここでいきなり世界wが登場する。だが、それがわれわれが身近に体験しているリアルワールドなのかというと、かなりの落差があるのは否定できないのだ。
そもそも命題P 「東京は日本の首都である」ような真偽を判断できる言明でリアルワールドが出来ているわけではないからだ。つまり、命題という情報(ヒトに伝達できることば)に還元できる、そうした極小性が、この「可能世界論」を羊頭狗肉的なものにしている。
命題から構成された「世界」など味も美も、匂いも茶碗の曲線もない、ひどく不毛な極小世界であるのに違いない。そこから、マルチバース(多世界)を論じるのは面白いが、現実に通用するものではない。
一種の公理系からできた「言語ゲーム」だったりする。言い換えれば、論理学者たちの住まう宇宙モデルでの言語遊戯だったりする。
これは一般相対論の宇宙論と何が異なるのであろう?
明らかに一般相対論は「味も美も、匂いも茶碗の曲線もない、ひどく不毛な極小世界」であることでは人後に落ちない。4次元時空間における質量分布しかない数学的方程式のモデルである。
遊戯性も同じようなものだ。数学の公理系のもとでの理論的な恒等式に弄り回しで、リアルワールドと引き較べてマッチングを楽しんでいる側面がある。
でも、大きな違いがここにはあるようだ。
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