ギリシア古代科学の偉人の一人、テオプラストス(Theophrastus)のことを語っておこう。アリストテレスの後継者にして同僚であったテオプラストスはレスボス島生まれ。父親は裕福な洗濯業者であったという。
師の跡を継いだ彼はリュケイオン(ペリパトス学派)を興隆に導き、その遺産がアレキサンドリアの科学的伝統に流れ込むのだ。
元の名はテュルクタモスといった。モタツイた響きの名前だ。
それをアリストテレスがテオプラストス(神の如くに話す人)に改名させたという。たしかにその師匠のアリストテレスの訥弁(とつべん)と異なり、その講義は名調子で弟子は2000人に及んだという。
ディオゲネス・ラエルティオスによれば23万2808行におよぶ227篇もの多くの著作を書いたとされるが、残されているのは僅かな書物と多くの断片だ。
とくに力説すべきは植物学に関する業績であろう。というか全巻に近い内容が残存するのはほんの僅かなのだが、この二作で自然科学に名を残したいうべきだろう。
『植物誌』9巻
『植物原因論』6巻
この両著で師の『動物学』と双璧をなす遺産を残した。植物学を実用から切り離し、科学的な観察と分類の基礎を据えた。食べること、毒性や薬用の有無などから切り離して客観的に事実を集めている。
単子葉植物と双子葉植物との切り分けも先鞭をつけている。植物の発芽に関する詳細な観察からの帰結であると平田寛も指摘している。
幸いにもこれらの書籍は邦訳がある。
『石について』という大量の断片もある。金属と石に分け、石については主として宝石に関して、重さ、透明度、破砕性、可溶性などを調べている。真珠がカキの分泌物であるのを知っていた。
イギリスの古典学者ファリントンによれば、テオプラストスはアリストテレスを超える部分もある。
その断片『形而上学』(たかだか19頁ほど)で師の目的論を批判しているのだ。また、ファリントンは『火について』(たかだか23頁ほど)の断片における自然観察の鋭さを賞賛している。
独立した著作として有名なのは『人さまざま』であろう。後世のラビュルイエールなどにも影響を与えた。
失われた著作目録のうち、自分がほしいもの(wishlist)をつけておこう。だが、もう発見される可能性はないだろう。前世紀の中頃、砂漠からアリストテレスの『アテナイ人の国制』が発見されてセンセーションが起きたが、もうないだろうなあ。
14.不可分の線分について 1巻
56.カッリステネスまたは哀別について 1巻
22.デモクリトスの天文学について 1巻
23.気象学 1巻
42.突然現われるものについて 1巻
168.弁論術について, 17種類
171.自然学説誌 16巻
176.神に関する研究の歴史 6巻
177.神々について 3巻
178.幾何学史 4巻
184.デモクリトスについて 1巻
デモクリトスの自然学がこの学派に流れ込んだのではないかと想像するのだけど、どうであろう?
【参考文献】
下巻のほうにテオプラストスが詳述されている。
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