サイエンスとサピエンス

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チェルノブイリの現在とストーカー

 チェルノブイリ原発事故跡地の現状を追ったドキュメンタリー映画チェルノブイリを追って: アポカリプス後の探索 (Stalking Chernobyl)』(2020)を見て、ストルガツキー兄弟タルコフスキーのビジョンが地上に現出した実感を持った。

 ストルガツキ兄弟の原作SFは1972年に発表された。それから7年後の1979年に伝説的な監督となったタルコフスキーによって映画化された。

 ドキュメンタリー映画は現地で廃墟ツーリズムが流行していることを教えてくれる。すでに致命的な放射線は低減しているらしく、多くの場所が観光客に開放されている。

なんと、ウクライナの観光名所!なのだという。

タルコフスキーインスパイヤされたRPGゲームが観光客を呼び寄せているらしい。

 実際に廃墟は1986年の原発事故当時の生活を鮮やかに切り抜いた光景に満ち満ちている。それは21世紀の日常生活以上に不滅でとこしえに続く光景なのだ。現代の廃墟というのは確かに人類滅亡後のビジョンを目前に提示している。その点で歴史的遺産とは異なる深いインパクトを現代人に残す。

 タルコフスキーの映画は表面的な解釈を寄せ付けない、そういう複合的で不条理なシーンの連続から構成されていた。


「ストーカー」 抄(1) / アンドレイ・タルコフスキー

 

 原作とは異なり「ゾーン」はどうして生じたかは説明されない。そこで何とか生き抜こう、異形の子供たちが生まれても、そこでの生活にしがみつくツガイドたち、異物ハンターたちを描いていた。

 先のドキュメンタリー映画では、現地ガイドは「ストーカー」と自称している。過酷な現実がSFを凌駕してしまっているのだ。

 福島第一原発が証明したように、ゾーンは今後も地表に現れ、そこに生きる人々に爪痕を残しつつ、拡大してゆくことだろう。

 

【参考資料】

Stalking Chernobyl

 

 

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 ソ連時代の原作SFも1970年代なのに重い作風だ。町田市にいた故深見弾氏の翻訳であったことも想いに懐古の念が混じる。

 

 

  野生動物の状況を詳しくレポートした記録。

チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌

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