20世紀というのは多事多難な時代でありながら、人類が地球規模で結合し均質化し、繁栄した世紀でもあった。
それを五大州別の人口という観点で考えてみよう。
具体的には、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニアでといった区分で19世紀から21世紀の前半(予測値含む)までの人口の成長ぶりをwikiにある2006年versionHYDE推定値から鳥瞰する。サンプリングした人口の数値(人口学者の推測値)は下の表につけた。
はじめに世界人口推定の推移。19世紀は1800年と1850年、1900年の三点しか推定値をとっていない。20世紀からはほぼ10年刻み。21世紀は2010年以降は推測値で、縦軸は人口の1000人単位での対数軸と理解せよ。
人口を対数軸としたことで「傾き」が人口の増加率として解釈できる。傾きが急勾配になれば増加率スピード大で、フラットになればゼロ成長だ。
横軸は西暦であるがサンプル年に応じて伸縮している。
このグラフは20世紀後半に人口増が顕著に加速したことを、それも19世紀の上昇率よりも鋭く上昇したことを示している。19世紀の人口成長にはジャガイモが貢献していると歴史学者は言う。19世紀半ばには西洋科学で重要な発見があった。元素的(窒素とリン)な循環が食料生産には不可欠だという化学者の発見だ。
さらに20世紀だけとりあげて拡大してみよう。
20世紀のなかで1920年以降と、1950年以降に二度の成長加速が発生している。これは二度の「世界大戦」の副産物である。自分の解釈では二度の戦間期に急発展した技術が民間に普及したためである。
医療と栄養に関わる科学技術の効果である。歴史学者ニーアル・ファーガソンの6つの真因のうち誰にも異論がないものである。
20世紀のヨーロッパの推移は戦争と科学の結果をあからさまに示している。
1910-1925年は人口が減少している。第一次世界大戦とスペイン風邪のためである。しかし、1930年は上昇し、第二次世界大戦中ですら緩やかな上昇を見せている。これはハーバー・ボッシュ法による肥料の革命による食糧供給拡大の帰結である。1950年以降の増大は食糧生産での「緑の革命」の成果ということになる。
そして、戦後のベビーブームと大量消費社会の到来で空前の活況を呈する。第二次大戦での栄養改善と衛生向上が全ヨーロッパ世界に拡大した結果であろう。
アジアはどうか?
1910年代、ヨーロッパ諸国が戦争している期間も人口増は続くがやや増加率が鈍る。これはスペイン風邪のせいだろう。驚いた事に、第二次大戦はそれほど人口増を低減させてはいない。
五大州の人口レースを概観してみる。
アジアはダントツで一位をキープしていた。ヨーロッパは二位につけていたがここ二十年で四位に落ちた。南北アメリカの20世紀の最後のスパートと21世紀のアフリカの台頭が目立つ。
オセアニアは歴史地理的に最下位を続けそうだ。第三次世界大戦でもあれば別だが。
最後に五大州の人口密度の推移だ。縦軸は人/平方キロメートルだ。対数ではない。
19世紀と20世紀の大半を通じてヨーロッパがアジアより人口密度が高かった。それも、21世紀には140人/平方キロメートルとアジアは突き抜けた密度になる。インドと中国、インドネシアのおかげだ。
他方、南北アメリカとヨーロッパが同じ人口密度になるのはお互いの人口流動性にもよるためなのだろう。
密度効果による飽和現象は21世紀中には見えないかんじである。19世紀になる境目でマルサスは「人口増加が食料生産を上回る」と予言した。その未来は21世紀の半ば過ぎに到来すると指摘されている。200年間はその予言が外れっぱなしだったわけだ。
もととした大州別の人口の推定値(千人単位)
【参考書】
西洋の台頭を脱西洋中心史観から描く。まあ、無理もあるけど。ポメランツの方がより客観的だが、こちらの本はそれなりに面白い。「所有権」「労働」みたいな資本主義制度の影響を組み込んでいる。
- 作者: ニーアル・ファーガソン,仙名紀
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近年はやりの歴史人口学観点で世界を分析した著作。ミクロ(家族)→マクロ(国)の架け橋視点が持ち味。
- 作者: マッシモリヴィ‐バッチ,Massimo Livi‐Bacci,速水融,斎藤修
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大増産の食糧史。古代文明の発祥以来食糧生産は革新と発展を継続してきたことを適切かつ簡潔にまとめている。
- 作者: ルース・ドフリース,小川敏子
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細部にこらず分かりやすく説明している。
ヒトはこうして増えてきた: 20万年の人口変遷史 (新潮選書)
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現代文明の窒素獲得の技術は幅広い影響をもった。一方、リンに関してはリン鉱石に依存しているのが実情である。リンの循環社会は近代以前の中国や江戸期の日本など、小数の国でしか実現できなかったし、今ではどの国にも残存していないに等しい。
- 作者: トーマス・ヘイガー,渡会圭子
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