ロシアのウクライナ侵攻の背景にはプーチン政権のエネルギー覇権をめぐる戦略があった。
プーチンの権力維持の軸は、エネルギー資源のシェア拡大と暴力的な威圧による脅威の除去だった。これらを効果的に組み合わせて専制体制を維持してきた。
西側の経済制裁が大きく効いていないのには、アメリカ主導の国際経済活動とは異なる流れを中国、ロシア、イラン、インドなどが維持拡大してきたからだ。とくにイランはドルを介さない貿易を行ってきた。北朝鮮もそうだ。ロシアがそれに加わったのだ。
これまでのウクライナ政権は西側諸国のメディアが報じているような公明正大な民主政権ではない。三分の一がロシア語を話す民族構成であり、汚職がはびこり、ロシアの天然ガスパイプラインからガスを抜き得手勝手に使う。エネルギー効率に関しては低レベルであったとされる。
アメリカのエネルギー資源戦略と基軸通貨としてドルのリンケージ。ペトロダラー戦略は巧妙なものであり、アメリカの経済力の凋落を覆い隠すのに大きな効能を持っていた。
経済的地位の喪失は、累積赤字の対GDP比が130%(2022年4月)、低い経済成長率、債権バブルの崩壊兆候(2022年1月からの9月まで)、人口成長率の低迷(2021年 0.2%)
ドルの国際的な価値はおそらく今回のウクライナ戦争とエネルギー価格の高騰で揺らいでるはずだ。海外の6000億ドルの累積債務が積みあげることができたのは強いドルに支えられていた。米国政府の負債もそう。対外貿易赤字もそう。米国人の自虐的な消費過多と赤字体質を支えてきた。
そして、今、アメリカのエネルギー戦略が狂い始めているのだ。
それとは別に政治的な問題がある。内部の分断が2010年以降急速に進行しており、その亀裂は対話での修復が困難なレベルになりつつある。その大きな原因は経済的な中流階級の縮小だ。
EUのエネルギー戦略は2022年の冬に各国軒並み(イギリスも北欧も含め)試練にさらされる。電力供給の不足は価格高騰を招いており、各産業に悪影響を与え、快適な暖房すら享受できない家庭が山ほど出現するだろう。
再生可能エネルギーへの急激なシフトとウクライナ戦争という不測の事態が重なったためである。後者はプーチンのエネルギー覇権主義の結果でもあった。
ロシアとEUは手を握りながら、ド突きあいする羽目に陥った。
再生可能エネルギーの導入は不可避だろうが、その経済的インパクトや環境への劣化作用がよく把握されていないまま、統治者たちはラディカルな目標設定をしている。とくにEUの一部やカリフォルニア州などがそうだ。
供給面に関して、面積当たりの低生産密度と日和見性=不安定性がもたらす経済活動や生活への影響を広範な視点でよく理解していないのが現状だ。
これは半世紀前の経済エントロピー学派(ジョージェスク・レーゲン等)が指摘していた点である。乱立するメガソーラーによる森林伐採や土地浸食が一例だろう。
「スモール イズ ビューティフル」ではなく、「スプレッド イズ ニア ワースト」なのだ。
地球的な資源獲得競争は鳥瞰的にみれば、こういう利益背反する国家間の対立と戦争になることは、これまでも起きていたことだ。現代社会が運営してきた国際機関も平和団体も国際法もどうやらそれを食い止める力はないようだ。