サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

ストーンマニア 石好き

 石が、好き。
 そんな人達はたしかにいる。

 何の変哲もない石を集め売るという甲斐性なしが、無能の証しになっているというのが、つげ義春の漫画『無能の人』である。

 つげの原作をもとにした竹中直人監督のこの映画はヴェネチア映画祭で高い評価を得たそうだ。変哲もない川原の石を売って稼ごうとする逸話が妙に心に残る。このだらしなさと不甲斐なさは世界の男性の共感を呼んだのだろうか?

 『おじゃる丸』のカズマはこれまた特異な「石の声が聞こえ、会話できるという能力」者である。*1 
 石の声を聞く、そんな行為と能力は古代にはあった。あの『デルス・ウザーラ』に語られているシベリア部族の行為が最近の実例だろうか。
 ではあるが、日本人の風習として石自体を拝む行為は、五来重の『石の宗教』にさえそれは出ていない。それが出来るのは、かなり未開な部族だけではないか。彼らのみが行えるシャーマニックな能力ではなかろうか?

 江戸期の木内石亭という奇人が近江の国にいた。コレクションを紹介した石の博物誌『雲根志』の著者だ。石に取り憑かれた最初の知識人だろう。それも実用性を度外視しているところがいい。あまりに珍なので石亭の住まいは江戸期の観光ガイドに記載されてしまった。
 奇人石亭は2000点の奇石を集めた。葡萄石、貯水石、仏光石などなにやら床しい名の珍石が彼のお気に入りだったらしい。「常陸の血玉」とは茨城県の産というが、なんなのだろうか? 奇人は奇石を呼び集める。
 しかし、シーボルトもその学術著作で石亭を引用しているというし、明治の「上代石器考」では『雲根志』を参考書目にしている。石器をも収集していたのだ(古きよの道具と知っていた由。石亭は神代石と呼んだけど)

 この書籍はインターネット上で鑑賞できる。
九州大学デジタルアーカイブ」の「江戸の百科事典」だ。
http://record.museum.kyushu-u.ac.jp/
また、奇著『天狗爪石雑考』も気軽に閲覧できるのが、ウレシイ。


 この本もちょっと風変わりだ。女性ライターのストーンマニアがモノした快著。

ミステリーストーン (ちくまプリマーブックス)

ミステリーストーン (ちくまプリマーブックス)

 彼女、ひょっとして石亭の蘇りなのだろうか?

 http://www.cafeglobe.com/news/interview/025/index.html
 この記事を読む限りではマージナルな場に身を置くことのできる女性と理解される。

 ストーンマニアはいまでも石の声をきくことはできるのであろうか?

 ついでに富士山のふもとにある奇石博物館を紹介しておこう。
 わたしも何度か訪れる幸いにめぐまれた。
 夏の思い出の場所だ。


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 作家たちにも「石」に偏愛を感じる種族が含まれていたことはこのアンソロジーが証明しているのかなあ。どの小編どれをとっても味わいがあった。編集の妙といってよいだろう。

日本の名随筆 (88) 石

日本の名随筆 (88) 石

*1:その犬丸さん、もはやこの世にいない。瞑目