サイエンスとサピエンス

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ブリタニカに「河童」

 世界の百科事典の代表は何と言っても『ブリタニカ』であろう。日本の妖怪の代表が紹介されているのを知ったのは先日のことであります。
 ブリタニカにある河童の項を読んだアメリカのジャーナリストのコメントが面白いので、引用します。

河童(Kappa)
超自然的な存在としては、今まで読んだ中で一番奇妙なのがこれだ。この日本の「吸血鬼にも似た好色な生き物」はキュウリが好きで、鱗のある緑色の猿のような姿をし、頭頂部のくぼみから魔法の水がこぼれるのを怖れて絶対に下を向かない

                      『驚異の百科事典男』より

 頭の皿にあるのが「魔法の水」がナゾなのだが、これを書いたジェイコブズ氏はこんなキテレツなバケモノを思いついた人は毒キノコで幻覚を見たのだろうと揶揄っている。好色というのは、何かの奇談にあるハナシを敷衍したのだろう。尻子玉を抜くのを好色とは言えまい。

 河童が海外で知られるキッカケは、二通り考えられる。
一つは、ゴロブニン『日本幽囚記』だ。岩波文庫版より引用する。

われわれに附いてゐた日本人は、学者以下みなが口を揃へて次のやうに断言してゐ
た。即ち日本園内のある河には、かたちは魚に似て長さ2アルシン位か、も少し大き
〈て鱗に蔽はれ、頭は人聞に似て、髪もあるといふ一種の水陸両棲動物がゐる。この怪
物はしばしば陵岸に上ってきて、大嬰な叫び撃をあげて、お互に角力をとったり、選ん
だりする。もし氷上や岸透に人間を認めると、襲ひかかって殺すが、食べはしないとい
ふことであるある。日本人によればこの動物は奇怪な方法で人間を殺す。人問の内臓をそっくり引き出すのである。これはむろん昔噺に似てゐるが、こんな話を設問するには、想像にも現実にも存在しない異様な動物が実際にきっかけを作づたに違いない

 文中どこにも「河童」の文字がないが、河童であるのは間違いない。江戸期の北海道での聞き書きなのだが、日本人がみな信じていたというのが、可笑しいですなあ。

 もう一つは、こちらのほうがありえそうなのだけど、石田英一郎の『河童駒引考』という文化人類学の本の功績であろう。著者の手による「The Kappa Legend」なる英語版が1950年に出ている。
 この本は柳田国男に捧げられている。彼の『山島民譚集』が河童研究の始まりだった。そして、芥川龍之介の『河童』はその影響下にある。

 だが、それ以前、別に庶民が河童を知らなかったわけではない。
 柴田宵曲は河童に関する名句を14句ほど集めているので、俳人の詩想と季節感を刺激するほどの存在ではあったらしい。

河童(かわたろう)の恋する宿や夏の月   蕪村

 この句が妖しい気配をよく伝えると柴田宵曲がコメントすると、たしかにそんな不気味さがあるように感じられるから不思議である。たった十七語から妖怪を感じるとは、これまた不思議なことであります。

関東近郊で河童を感じる場所の随一は、牛久沼だろう。
 茨城県牛久市牛久沼には河童伝説と河童リリーフがあります。小川芋銭は河童の画を描いて名士となり、牛久の地に永住したそうです。
http://www.geocities.jp/temo_hero/library/study/kappa.html


 この伝説は河童が牛を沼に引き込んだというもので、「牛久」の語源になったと思われる。ここで、石田英一郎の『河童駒引考』の「牛と水神」のハナシに引き戻される。
 そうだ、今度は牛久沼にでも散策に出かけることとしよう。


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