サイエンスとサピエンス

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『本を読む本』のアドラーの野望

 『本を読む本』は読書法の白眉だと評価されている。
たしかに、4種の読書法には智慧と論理が充ち満ちている。至るところ、ひざを打つような洞察があり、読書に励みがつく。
 本格的な「読み」とはこういうものか、と納得させてくれる。「シントピカル読書」がスゴイ。早くこの読書法を知っていればと後悔しない人は少ないだろう。*1 この本がロングセラーであるのはうなづける。

 その著者の一人がモーティマー・アドラーだ。シカゴ大学哲学教授でエンサイクロペディア・ブリタニカ編集長であると奥付に紹介されている。2001年に99歳でなくなったという。
 実は、この「エンサイクロペディア・ブリタニカ編集長」というのが、アドラーの野望、潰えた野望の対象だったという。「読書法」はそのための手段でしかなかった。
その野心の整理術が alphabetiasis なのだ。
具体的な成果がブリタニカから刊行された「グレート・ブックス・オブ・ウェスタン・ワールド」全54巻で、その第二巻「シントピコン Syntopicon」が彼の代表作であるされる。
 西洋の知識を集約した102の偉大なアイデアが盛り込まれていた。そのために費やされたコストは百万ドルという。

 その遺産はどう継承されたであろうか?
どうも世界を裨益したとまではいかないようだ。ブリタニカは印刷の世界から消え去り、百科事典の代名詞でもなくなったのだ。
 巨大な野望の代償として残されたのが『本を読む本』なのだろう。その価値は百万ドルはある。

本を読む本 (講談社学術文庫)

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対照的書籍

書物 (ワイド版岩波文庫)

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*1:本の森銑三と柴田宵曲の『書物』と併読するのがお勧め