サイエンスとサピエンス

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ディヴィッド・ボームの評価メモ

 20世紀の物理学者ディヴィッド・ボームの評価はよく定まっていないようだ。
ボームというとボーム・アハラノフ効果が専門家はすぐ思い浮かべる。日本の研究者外村彰氏がそれを実験ではじめて検証したのだ。
 それから、みすず書房で出ている『量子論』。1964年から販売しつづけているので、ロングセラーといえる。これは優れた教科書で、紐解かれた経験をもつ人も多いだろう。

 こうした正統的な側面とは別に、量子力学の異端的解釈でも知られる。ご存知のように素粒子は波動性と粒子性を兼ね備え、その波動方程式は確率を記述するだけだというのが、主流だ。
ボームはこれに異を唱えてド・ブロイの流れをくむパイロット波の理論的な量子力学解釈を提唱した。非局所性を全面的に主張したのだ。粒子を実在させる代償に非局所的なポテンシャルを持ち込んだのだといえよう。

 ニューエイジ系サイエンスが80年代にはやった。その時代にどうみてみても非科学的な運動に担ぎ出されたのが、ボームだ。彼にもホーリズム的傾向があったのも事実。非局所性=ホーリズムの連関は誰でも想像できる。

 ときは21世紀。量子暗号、量子コンピュータ量子テレポーテーションと非局所性は大流行だ。量子的もつれ(エンタングルメント)という新しいコード名がついているが、工学的な実用に供される時代となった。
 ボームが再評価されているのではない。まだ、その評価は定まっていない。量子力学の解釈はコペンハーゲン主義の王座が揺らいでいるのだが、

 非局所性を指摘したのはERPパラドックスがはじめてだったが、それを問題の全面にすえたのはJ.S.ベルだった。ベルの不等式はボームの本には出てこないが、今や教科書の定番になった。局所的な隠れた変数の理論は成立しないことは実験からも示された。そして、非局所性は「常識」になったようだ。
 そのベルはボーム理論を高く評価していたことはあまり知られていないようだ。

 疑似科学と最後まで戦い続けたマーチン・ガードナーもボームの評価には迷っていた。なにせ、ニューエイジ系サイエンスに肩入れして、ホーリズムを主張する『断片と全体』を著した共産主義シンパの物理学者なのだ。だが、最後の疑似科学論集『インチキ科学の解読法』で目立った弾劾はしていないのは、どうしてだろう?
 サイエンティフィック・アメリカン誌上でボームを擁護したアルバートの論文の存在が大きいのではないだろうか。
 ベルに守られ、サイエンティフィック・アメリカンでも擁護されたボーム流解釈は死んではいない。だが、その現実的な検証や応用はあまりに複雑すぎて、理論的遺物と化しているのは確かなようだ。
 


量子論

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断片と全体

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ガードナーの第二の疑似科学弾劾の書で「ボーム」を取り上げた。だが...

インチキ科学の解読法 ついつい信じてしまうトンデモ学説

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ボームのインタビュー

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