科学に興味のある人にとって、話題には事欠かないアインシュタインだが、多くの人にとって、最大の謎はアインシュタインはなぜ生まれたかだ。
不世出の天才だからという答えを求めてはイない。
つまり、光電子仮設、ブラウン運動の理論、ボーズ・アインシュタイン統計など量子力学の初期貢献や特殊相対論、一般相対論のほとんど独立的な創造などピカ一な功績の数々を兼ね備えた、たった一人の人物がなぜ存在しえたかという疑問である。
金子務の『アインシュタインはなぜアインシュタインになったか』はタイトルからして示唆を与えてくれそうな内容であるが、ヒットスレスレのファウルだった。
アインシュタインの生きた環境をこの本ではうまく要約してはくれる。
19世紀の科学と工業の勃興の著しいドイツに生まれ教育を受けたのは外的状況として理解できないこともない。それに伴ないドイツ重工業界からの研究テーマと資金の提供がこの当時のドイツ科学の推進力となったことは有名だ。
プランクはその立役者の一人だったし、オーストリアのボルツマンもそうだった。アインシュタインはそうした栄えあるドイツ科学の正統な嫡子だったというのもあろう。
そして、その相対論の創造という点では、ニュートン力学と電磁気学が統一原理を求めていた時期ということもあろう。
そこまではいいのだが、十分な答えになってはいない。
上記を補足すれば、それを成し遂げるその場所にアインシュタインがいたことの不思議がある。特殊相対性理論に関して言えば、ベルンという物理学の周辺からそれを発表したのだから、地理的な場所を言っているのではない。
中心から離れていたがゆえに、別の観点で把握できたというのは可能だろう。
かの東洋史家の宮崎市定がこういうことを指摘している。
複雑な性格は境界線上において養成される
歴史上の転回点に出現する人物はスターリンでも織田信長でも漢の高祖でも周辺に現れ、そして中央を制覇するのだ。
だが、オランダの一流物理学者ローレンツでもフランスの天才ポアンカレでもなく、白面の一青年が真理を射抜いたところに妙味がある。
ベルンで、光量子仮説とブラウン運動と特殊相対性理論を三大発見をしているのも興味深い。
ニュートンがペストを避けて、自宅に避難し、周囲から孤絶した研究から流率法(微積分)、分光学の基礎、万有引力の着想を得たのと対比できるだろう。
ここであえて言うと、アインシュタインの数理的能力はユダヤ的な数理知性のあり方も示しているという見解はないだろうか?
「神はサイコロを振らない」という名言に象徴される実在に対する物怖じしない確信、揺らぎなき幾何学的な普遍性への信頼というようなユニバーサリティが新しい普遍「法則」への駆動力になったのではないか。
それを体得しているユダヤ的エートスが彼の天分の特徴ではないか。
....というような人種イデオロギー的なバイアスが混じった見解が、アインシュタインの存在の核心を突いているかもしれないのだ。
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当時の本人の実写フィルムと肉声を多く含むアインシュタインのドキュメンタリ。
タゴールとの会話も興味深いものがあったが、対談集は残っているのであろうか。
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