超心理学は19世紀後半のイギリスの「心霊協会」、通称サイキカル・リサーチに端を発する。
設立当初はイギリスの錚々たる顔ぶれがメンバーとなった。ヘンリー・シジウィック、ウィリアム・クルックス卿、グラッドストーン、ラスキン、A.R.ウォーレスやアメリカのウィリアム・ジェームズなども名を連ねた。フランス支部ではジャネとリボーとかテーヌが加入した。哲学者、臨床医、心理学者、生物学者、文学者などの混成部隊といった趣きである。
しかし、客観的なテレパシーや予言、アポーツやテレキネシスなど心霊現象の事実の収集だけでは、「霊的現象の実在」には繋がらない。それは公認された自然科学の対象にはなりえないのだ。
思うに、事実の集積による帰納法だけでは自然科学にはなりえない、というその典型となった。事実が科学の対象となるには、その「事実」の括りだしが必要だ。実験室に持込、様々な審査に耐えて、しかも場所や観察者などの条件を変更してもいつも観察される必要がある。要するに、気まぐれに特別な場所で起きるのでは、科学の対象たる資格喪失なのだ。
エドマンド・ガーニーやフレデリック・マイヤーズといった研究家の奮闘によっても、科学者たちに認められることはなかった。
デボラ・ブラムのノンフィクション『幽霊を捕まえようとした科学者たち』にその懸命な努力が描かれている。皮肉にも彼らが努力すればするほど、「心霊協会」は科学から疎んじられていった。科学界からの「幽体離脱」を起こしたのだ。
それでもこの二人は死後の生存を信じて死んでいったのだから救われたのかもしれない。
これではならじと大西洋の向こう側の心理学者J.B.ラインが創始したのが「超心理学」だ。これは計量心霊学といってよいだろう。すべて科学的なものは軽量化できるというひそみにならったのだ。
ラインは統計的手法を持ち込んでその現象の有意性を検定したのだ。
だが、それでも大半の科学者は顔をそむけたのだ。
それより前、一般の心理学は統計的手法を大々的に取り入れて成功している。
知能指数(IQ)などがいい例だ。多くの人の計測値をもとに知力を客観尺度で計量化するのだ。IQは今でも多くの人が信じているくらい大成功だった。
そう過去形なのだ。実は、知能を一つの尺度で測れるというのは根拠のない幻想というべきものだったいうのが、今日の見解だ。その証拠にIQテストは消え去った。
それはともかく、統計手法は心理学の主要な道具立てとなっている。ならば超心理学は同じ道具建てで検証をしているのにどうして、科学界からほとんど村八分状態なのだろうか?
自分なりの回答としては、それは「物理現象」という鬼門に触れてしまったからだ。
心理現象は物理現象に遠隔的な関与をしないという不文律がある。それは心理現象と物理現象は切り離されるべきというのが、暗黙の掟ともいえる。
従って、そこには如何なる因果関係もありえないというのが、自然科学者の方法論であり前提なのだ。強調したいのは、いかなる根拠もないので形而上学といってもよいだろう。
それはともかく、それを別の側面から疑似科学的に説明するのが、ここでの本論だ。
テレパシーに的を絞ろう。テレパシーが何らかの物理的実在であるならば、量子力学に従うであろう。とくにその非局所性=量子テレポーテーションは、テレパシー現象に一番近縁的な量子効果である。であるので遠隔地にいる二人の脳のマクロ的精神状態において、非因果的な波束収縮が「テレパシー」の要因の候補と考えるのは尤もらしい。
ある意味、ジョセフソンの説だ。
ところで、この最尤仮説は数理的に「人を説得できない」ことが既に証明されている。
非因果的波束収縮は「情報を伝達できない」のだ。これはテレパシーが起きないという意味ではない。いかなる意味のある=社会的に公認できる情報も伝達できないのと言い換えておくと理解しやすい。
起きてもその情報が正しいかどうか証明できないと解釈すべきだというのが、ここでの主張だ。その情報が必ず正しいかどうかは保証されない。つまり、テレパシーによる情報伝達は社会的な再現性がない。
よって、現代物理学の原理ではテレパシーが存在しても、それは情報通信とは無縁の伝送路だということになる。
中立的な立場から心霊研究の初期の研究者群像を描く。超心理学はそのスタート時点で、19世紀の自然科学の主流にのれない宿命にあったのだ。それにしてもガーニーはロンドンの幽霊屋敷で死去しているのは小説的だ。
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