アルファベット順に単語を並べるという辞書の規則が生まれたのは1604年、ロバート・コードリーによる『アルファベット順単語表』が刊行された時だ。
アルファベットはギリシア文字のαとβを語源としている。
この単語表には2500語が定義されているということだ。
以後、17世紀の辞書はすべてアルファベット順になる。言わば、読み=表音文字で自動分類を図っているのだ。
日本では、江戸時代の国語辞書『和訓栞』(1777)を編んだ谷川士清がすでに五十音順で並べている。
辞書を編む時に表音文字で並べる整理法が、自然なものかというとそうでもないそうだ。ナバホ語はそのいい例だ。接頭辞がやたらに多いので、単語から接頭辞を切り出して、音韻の変位をリセットしければ辞書を引くことが出来ない。
整理法としてのアルファベット順に敵意をむき出しにしたのが、モーティマー・アドラーだ。あのロングセラー『本を読む本』の著者であり、ブリタニカ百科事典の伝説的編集委員だ。
アルファベット順に頼ることは知的欠陥と怠惰であるとのたまわった。すべの知識のカテゴリは102のグレート・アイディアに従うべきとした蛮勇の持ち主であったという。
アドラーの主張はそれほど間違っているわけではない。「存在の偉大なる連鎖」を表現するために「知識」や「概念」があるという強烈な信念がそれを支えている。
それはプラトンの思想にまでさかのぼりうる。彼の対話篇『パイドロス』では「書きことば」は話し言葉と異なり、精神を萎縮させると指摘する。
それはともかく、
「単語」を文脈から切り出す、それを「意味」とは異なる「読み」で並べる。その「意味」も標準的な定義となっていなければならない。それだけの努力が「辞書」にはこめられている。
しかし、デジタル化された辞書はだいぶ異なるものになるだろう。それはソーシャルメディアと結合されたデータベースになる。日々更新され用例は拡大する。境界がなく、言語と国家の壁もひとっ飛びだ。境界というのは用例や参照先の境い目だけではなく、メディアの境界も含む。地図であり写真であり動画であり、ニュースであり、ブログであり、FBだ。書籍はその一部でしかない。
そして、メタデータがその使い勝手を決める。マーケティングの専門家でもある哲学者ワインバーガーが主張するように、MISCELLANEOUSがすべてであり、メタデータはMISCELLANEOUSを扱う。アマゾンはメタデータ(協調フィルタリングや書評、ランク、購買履歴等)を通じて購読者に重要なメッセージを提示している。
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