「人間とはなにか」
宇宙的視野をもった疑問とその挑発的回答という系列がある。自然科学に基礎をおいた欧米流の問いかけが、ここに三種類ある。
マックス・シェーラーは現象学の鬼子の一人である。フッサールの門下でハイデガーの兄弟子にあたる。彼の回答は『宇宙における人間の地位』というそのものズバリの著作にある。
ハイデガーの存在への問いもその影響下にあるといえよう。
ほぼ同時代に隣国フランスのカソリック司祭が『現象としての人間』で同じ問題に挑んだ。ご存知、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンである。
自然人類学と進化論に基づいた人間進化のビジョンである。それは現代のハッカー文化にも浸透している。ヌースフィアやオメガポイントがキーワードだ。
一世代前にイギリスでダーウィンのブルドッグと言われたトマス・ヘンリー・ハクスリーも『自然の中の人間の位置』で進化論に忠実で穏健な回答を用意したした。
一方、ダーウィンのライバル(ダーウィンに消された男)アルフレッド・ラッセル・ウォレスはもっと挑発的な回答を提出した。『心霊と進化と 奇跡と近代スピリチュアリズム』という方向に突き進んだのである。
いずれも壮大な展望をもった人間的知性の記念碑である。いずれも邦訳があり比較的容易に接することが出来る。
東洋において、これに比するような回答はないだろうか?あるにはある。しかしながら、残念至極にも自然科学が後発であるために、空理空論の誹りを免れない。
といいつつも、深さと汎用性においては比類なき理論が大乗仏教徒の手でものされている(と自分は信じる)
『大乗起信論』である。
これはもの凄い思考のでんぐり返しである。
この著者に従えば、宇宙は人間のために、衆生のために、すなわち輪廻するすべての生きとし生けるもののための、マインド・フィールドである。覚者=仏陀と迷える衆生は相補的な関係にある。そして、究極の処で極限は一致する。天才、井筒俊彦の最後の仕事がその究明にあった。
ひとたび、ヒトと生まれたからにはこんな思考の限界線へのトリップを堪能しない手はないだろう。
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