フリードマンが『フラット化する世界』で、「先進国」からインド人や中国人がシステムエンジニアやコールセンターの仕事を獲得してゆくと論じてから十年も立たないうちに、トレーダーや弁護士などの高度な知的職業を人工知能が奪い取る時代がやってきた。
弁護士はともかく、トレーダーはすでに就業者数が激減している。アメリカでの取扱量の60%はアルゴリズムトレーディングに置き換わっている。これがどういう意味を持つかは後で考察しよう。
さらに、2014年11月の記事「オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」702業種を徹底調査してわかった」あるいは「消える職業のカゲには人工知能の進化があった!?」などでも報じられた。
この中にはバーテンダー、レジ係、測量士と幅広い職種が出ている。ここでもコンピュータ、もしくはもののインターネット(IoT)がその技術的要因である。
日本では人気の資格、薬剤師なども10年後にはどうなるか分からない。すぐれて人工知能に特異な処理だからだ。しかも、ヒューマンエラーがなくなる(アメリカの公的統計では処方ミスが1%だというが、それ以上の発生率と推定されている)からだ。
金融、ファイナンスの世界でのAIあるいはビッグデータの高速処理の浸透は、リーマン・ショック後に急速に進んだ。リーマン・ショック前は金融工学で商品を生み出すのにコンピュータとアルゴリズムが使われたが、リーマン・ショック以降は金融商品の取引をいかに高速かつ巧妙に行うかに数理的才能が使われるようになった。
大口取引を小口にバラして行いうステルス性やそれを見つけるアルゴリズムなどがNYSEやシカゴ市場で無数にうごめいている。魑魅魍魎の世界あるいは一昔前のコア・ウォーズの世界が現実になったのだ。
その詳しいルポは『アルゴリズムが世界を支配する』(角川EPUB選書)の前半にほぼリアルタイムにまとめらている。
アルゴリズムのボットたちが繁殖するのはデータセンターである。超広帯域ネットと潤沢なHWリソース、それにセキュアな環境が大儲けするボットたちに提供されている。
これらの貪欲(グリーディ)なアルゴリズムたちは儲けるチャンスを逃さない。
各市場のイールドカーブからのわずかなズレを機敏に捉えて売り抜けていく。不眠不休で文句ひとつ言わず活動する。
問題がないわけではない。かの「フラッシュ・クラッシュ」という事件が2010年5月にあったことを忘れるわけにはいかない。アルゴリズムたちが暴走するのだ。しかも、設計者にも理解できない理由で暴走してしまうのだ。
自律エージェントたちの個別行動があるときにカオス的になると表現してみてもいいかもしれない。
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