サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

グローバル化の帰結を探る

 グローバル化とは世界が等し並になってゆく運動と言い換えてもいいだろう。
 インターネットはもちろん、TPPなどの動きもその現れである。経済障壁を取り払い、観光ツーリズムで人の往来を奨励。英語がすべてのビジネス、交渉、アカデミックな活動のベースとみなされる。財政学の専門家が指摘するのは、所得税法人税などの税率が先進国で同じ値に収束してきている。それもこれも世界中をあげて等し並みにする運動であろう。
 
 市場原理の導入は取引とヒト・モノ・カネの移動をフリクションレスとなるように、現代文明を導きつつある。

 しかし、こうした等し並の世界では、一地域の小さな変化が全世界の相転移を招くこともある。バタフライ効果の一種だ。その危険性は複雑性理論の大家ジョン・キャスティに従って「Xイベント」とカテゴライズするものにカウントすることができるだろう。「想像を超えるような極端な事件・事故」を「Xイベント」している。
 キャスティの10の「Xイベント」をあげてみよう。

 1)デジタルの闇 インターネットの広範囲かつ長時間のクラッシュ
 2)空っぽの食卓 あと数十年といわれる食糧危機
 3)電子機器が止まる日  巨大EMPによる電化生活の停止
 4)新世界無秩序 ユーロ崩壊のシナリオ
 5)物理学がもたらす破滅 LHCの実験結果としてのブラックホール
 6)吹き飛ばされて 核攻撃と核のテロ
 7)ガス欠状態になる 世界の石油タンクが干上がる日
 8)すぐそこにある脅威 世界規模の流行病
 9)停電と水不足
 10)テクノロジーの暴走 人工知能が文明の主役になる
 11)グローバルデフレ 世界の金融市場の崩壊

 自分の観点では1)デジタルの闇、4)新世界無秩序、8)すぐそこにある脅威、10)テクノロジーの暴走、11)グローバルデフレが世界の均一化・等し並化により確度が高まっているXイベントとなる。

 システムとしての現代文明は火種を抱えており。もはや、税関や国境や海峡や山脈などは防塞とはならない。 
 情報も流行も生活様式・商品も経済・景気、思想や教義も細菌・ウィルスもそうした可能性をもつ自己増殖系の火種だ。グローバルな伝染力が強く、燎原の火のごとく五大陸を嘗め尽くす。

 楡の木をご存知であろうか?
 北米にあっては街路樹の代表であった。しかし、20世紀になりニレ立枯病がヨーロッパから襲来し、見る影もないほど株数が激減した。ヨーロッパでもイギリスはことにひどく楡の木はほとんど枯死したとされる。日本や中国のニレ科の樹木は耐性があったのだが、如何せん北米や西洋の楡の木のように高木にはならないのだ。
 ニレ立枯病は世界の樹木三大病の一つだ。しかし、こうした動植物圏へのグローバル化の悪影響は人類の移動とともに始まっていたと考えるべきであろう。

 世界はかつてないほど、均一化が進みつつある。資産のポートフォリオ理論でいえば、多くの卵が一つのカゴにまとめられつつある。あるいは、まるで「隔壁」を取り払った「タイタニック」にような状況にある。
 グローバル社会は利便性やコスト低減をもたらしているのも事実だ。
世界の隅々とつながっているのは結構な事かもしれない。だが、片隅で起きた事件がたちまちのうちに増幅されて地球の裏側の住民の安全性を脅かすというのは、どうにも頂けない。
 こんな不安定で不安全な状況に「否」を唱えて「鎖国ステート」を選ぶ地域も出てくるのではないか?
 島ぐるみの自給自足のエコスフィア3を政策にする国が現れるかもしれない。


【参考書目】
 ニコラス・マネーの本の第二章「ニレとの別れ」を読み給え。アフリカ象などの哺乳類を滅ぼそうとしている人類はそうした意図的な殲滅と異なる絶滅を樹木でも引き起こしていた。

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 サンタフェ研究所にも所属するキャスティの晩期、そして最新の著作。収穫逓増の現象というのは、複雑系理論の産物だが善にも悪にもなるのだ。

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