古代ギリシア文化に不可欠な地域は「マグナ・グラエキア」、大ギリシア地方と訳すのか、である。南イタリアなのだけど近代の南イタリアは、ナポリ以北にしか脚光を浴びることもなく、経済的には不毛なイメージを与える。
ギリシア文化史、哲学史ではパルメニデスやゼノン、エンペドクレスなどを輩出したが、とりわけピュタゴラスが移住しその学派=教団を形成した土地としてクロトンが有名だ。
クロトンは長靴の土踏まずよつま先の真ん中あたりに位置している。今ではひなびた街でしかない。クロトーネとイタリア語で呼ぶ。
古代にはお隣の都市国家シュバリスと闘争したこともある。現在のシーバリだ。
今風の旅行記ではクロトーネはスルーされている。陣内秀信の『南イタリアへ!』でもギッシングの『南イタリア旅行記』でもだ。
ピュタゴラスは宿敵であったシュバリス戦争を勝利に導いた指導者だとする幾つかの伝承がある。繁栄していたシュバリスはその結果没落した。かつてはシュバリス風という表現は贅沢で懦弱な生活様式の代名詞だったが、ピュタゴラスはクロトン人のそうした風習を改めさせたとも伝わる。
しかしながら、閉鎖的なピュタゴラス教団の支配はクロトンの貴族層の反感を招き、教団の集会中に放火されクロトンのピュタゴラス学徒は壊滅的な被害を受けたとイアンブリコスが伝えている。ただし、ピュタゴラスはそれ以前に亡命していたという。また、他の都市国家にもピュタゴラス学派はおり、伝統が途絶えたわけではない。
ピュタゴラス学派の数学や自然学、天文学に関わる教説はクロトンで生まれ、南イタリアに巣立っていったわけだ。
政治的には失敗者であったピュタゴラス主義は、しかしながら、思想的にはギリシア本土にも大きな影響を与えることになる。
南イタリアのクロトーネ(Crotone)は人口6万人の地方都市。
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