サイエンスとサピエンス

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ストア学派の「世界燃焼(conflagration )」 

 古代ローマ時代に支配的だったストア学派。英語にもストイックというワードが残存するが、もともとはヘレニズム時代(アレキサンダー大王死後からプトレマイオス王朝没落=クレオパトラの死去まで)に生まれた総合的な哲学である。ギリシア哲学だがローマ人にも受け入れられた
 キケロエピクテートスマルクス・アウレリウスがローマ人の信奉者とし著名だ。それぞれ雄弁家にして著述家、元奴隷、五賢帝の一人となる。
 その自然哲学というのも断片的であるが、かなりの情報が残されている。
 ここでは特異な終末論ビジョンである「エクピュローシス(世界燃焼)」、英語では「conflagration」をまとめておきたい。
 ストア学派の宇宙観によれば世界存在は周期的なものであり、創造と消滅を繰り返している。それはどうやら東方由来の概念だったらしい。
 比較宗教学者エリアーデは「大火によってこの世が終りを告げ、かつ善が無事に遁れ出るとの神話が、イラン起原のものだということが、次第にあり得ることと思われてきている」と記述している。

 世界燃焼とは火による事物の解体、宇宙の炎上による終末である。それは初期ギリシア哲学まで遡る。

 カーク&レイヴン、スコフィールドの『ソクラテス以前の哲学者たち(第二版)』によればヘラクレイトスの断片

世界秩序体は、尺度の内で燃えたり消えたりしながら永遠に生きる火であり、かつあるだろう

 があるのだが、このヘラクレイトスの教説がストア学派の自然哲学に影響している。
上記の本の脚注によれば「海と大地は宇宙的なアイテール的火が転換する」ものであり、大年周期10800年毎に火による世界解体が起きる。
 この大年周期はインド神話のユガ=12000年に相当するものと考えられている。類似な周期はい中東における古代宗教では頻出していたようだ。
 再び、エリアーデを引用しておく。

マツダ教(ゾロアスター教)ではさらに古く宇宙九〇〇〇年(ω×88)説を提唱し、他方ニイパーグの示すように、ザルヴァン派ではこの世界の最大存続期間を一二〇〇〇年に延長する。この二つのイランの思想体系では、――さらにすべての宇宙周期説に同じく― この世界はフィルミクス・マテルヌスにのちにしるされているように、火と水によって終末をつげる。ザルヴァン派の教義にあっては「無限定の時間」はオルマッドによってはじめられた「限定された時間」の一二〇〇〇年に先立ち、またこれにつづく。

 火を崇めるゾロアスター教では最終戦争は火の勝利を説くのだろうか?
 世界が火により終焉するというのは「地球温暖化」時代の思想的伝統として、興味深いものがある。



【参考資料】

永遠回帰の神話 - 祖型と反復

永遠回帰の神話 - 祖型と反復