サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

銀河帝国の歴史

 ハリー・セルダンは心理歴史学の天才科学者で、銀河帝国の崩壊を予測し、次世代政治体制の確立に向けた大掛かりな歴史コントロールを仕組んだ。ご存知、SF界の巨人アシモフの「ファウンデーション・シリーズ」の背景だ。
 しかるに、21世紀の現実は「歴史のコントロール」は出来ず「歴史の予測」すらも絵空ごとのようだ。
 どうもそれは社会科学の根本的な基盤が、物理学のようなアルゴリズム圧縮が可能で実験的な再現性を保証された分野の基盤とはまったく異なるためらしい。
 アシモフと同世代人といってもいいカール・ポパー卿は「歴史主義の貧困」で大掛かりな社会科学、あるいは自然科学に範をとった社会工学はありえないとした。
 彼はピースミール=漸進的社会科学を構想した。でもって、歴史に戻れば歴史の工学化はポパーの意味でも実現していないと考えられる。社会主義国家はそれを実装しようしようとして、片端からコケた。
 ソ連は需要供給と価格を統制するための計算部局を設置したが、行列と品薄のモスクワの映像ニュースが結果を物語っていた。サイバネティック社会論がポーランドなどで出現して、一時は夢が持てた時代もあった。*1
 でも、社会主義国家はどこもが晩期にはまったく機能しないに等しくなっていた。経済のコントロールですらこのアリ様だったのだ。

計量経済学入門 (1964年)

計量経済学入門 (1964年)

 高度な情報化社会と消費体制を実現した自由主義国家圏は、成功しているだろうか? どうもそうとは言えないような気配がある。それはまた別の大きな話題である。

では、やはり歴史の制御による理想国の実現や将来の予測をまともに扱うことは出来なのであろうか?
ブキャナンのこの本はそれを推測するうえで、貴重なヒントを提供している。

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

*1:オスカー・ランゲの理論には夢があった。ランゲのこの理論は中央統制コンピュータで実現できないか?でもそれは電子クラウド国家と大きく違わないかもしれない