サイエンスとサピエンス

気になるヒト、それに気なる科学情報の寄せ集め

3.11以降の現代文明

 東日本大震災は元首相ふうな表現でいうと未曽有の災害であり、規模・範囲・激甚さ、どれをとっても現代文明の想定をこえる巨大な災禍でした。
 厳しい「耐震基準」を自己に課し、日々避難訓練に励んできた国民への被災後の秩序正しい行動と自己統制は各国メディアから賛嘆され、「超A級国民」とまで呼ばれた。
また、その「超A級国民」がさらされた災害に対して暖かい援助の手が各国から差し伸べられたことも感動的な出来事ではりました。

 現代文明の典型的国家である日本を巨大な災害が襲うことで、大きな課題が浮き彫りにされたといえましょう。
1)原子力発電所が巻き込まれ災禍を複雑なものにした
2)国土の半分ほどが影響を受け経済活動に支障をきたした
3)集中管理されていない分散型のインターネットがコミュニケーションコアとなった
4)世界への部品供給のサプライチェーンであることが自覚された

 とくに、1)の事態が大きな歴史的意味を持つのではないでしょうか。
温暖化ガス対策の切り札とされた原子力発電所津波による冷却機能損失によりレベル7の事態に陥ったことは、世界中を震撼させました。
 この出来事は、太陽光や風力への切り替えを促進させてゆくだけではなく、節電あるいは電力離れを加速させているようです。
 おそらく節電は一番の解決策なのではないでしょうか?
 ソフトエネルギーは気まぐれで非効率である。従来の発電方式との組み合わせでいくしかないのは論を待たないが、湯水のごとく電力を使う時代は終わったのであろう。電気自動車とても例外ではない。
 節電型の自動車や家電を使うしかあるまい。

 そんな常識論よりも、災禍の複雑さが半端ではないことが、いっそう気になります。
震災・津波メルトダウンの連動など「3.11」以前に誰が予想したであろう?
 どんな無責任な霊能力者もラディカルな科学者や反原発運動家も予想していなかったにちがいないでしょう。
 つまりは、原発を管理運用する電力会社も所轄官公庁や政治家はもっと予想だにしていなかったにちがいないのです。

 全人類にとって「想定外」であったのだと言っておきましょう。リスク管理リカバリー対策ができてないのは、類似な先行事象がなかったのだから、当然といえば当然であります。
 体制を弁護しているのではないのです。技術はそうしたものだし、自然災害は数千年の人類の知の蓄積をかんたんに凌駕する、それを再認識せよといいたいだけなのであります。
 これを株価や市場に関して明言したのが、ニコラス・タレブです。正規分布が変動をすべて支配するなどというのは幻想です。どこかにブラック・スワンが現れてすべての経験則をひっくり返すのです。
 ブラック・スワンはオーストラリアに棲息する黒い白鳥です。この巨大な島が発見されるそれまでは「白鳥は白い」は科学的命題でした。黒い白鳥が現れてそれは無意味な命題に没落してしまいます。
 マグニチュード9は何千年に一度とか、津波の波高は5m以内とかいう経験則と同じです。経験則はどこかで破られるときが来るのあります。
原子炉の安全性のための設計条件も同様です。経験則に則った技術知は、無窮の時間からみれば、所詮はその場しのぎでしかないのでしょう。
 専門家や政治家、そして我らよりも被災された地元民の方々のほうが、そうした認識が強いのでは?
 被災民の「超A級国民」的ふるまいは、そうした叡知を宿しているからこそ可能なのかも知れないのです。